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「うっ……」
何処かに転移した。頭の片隅で考えてるなか私は無造作に地面へと放り投げられた。
背後から聞こえてくる薄ら笑いが私の心を侵していく。
「クックック……ここまでくれば……」
後ろで呟く魔族の声が段々と薄れていく。
何処とも分からない森のなか、逃げる道もない。全くわからない場所で死ぬの?
……嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない…………
気付けば私は四つん這いで逃げようとしていた。絶対的な死を前にしての生への執着。
見苦しい、そう思わずにはいられない。こんなことで逃げられる訳がないことぐらい分かってるのに。
情けなくて、悔しくて、涙がまた零れ始めた。
だが体が勝手に、まるでこれが本心だと云わんばかりに動いていく。
だがその行動も直ぐに終わりを迎えた。
「おい……なにしてんだよぉっ!!」
「カハッ!?……うぅ……」
いきなり肩を掴まれそのまま仰向けにまたも地面へと叩きつけられた。
「てめぇは逃げられねぇんだよ。今から俺の趣味に付き合ってもらうんだからな」
その顔は先程までとは違う、汚く下劣な笑みだった。
「しゅ、趣味って……」
私は聞き返しながらも返ってくる答えが予想できた。あんな笑みを浮かべる人は皆そうだったから。
「死ぬ前にてめぇに快楽を与えてやろうっていう、俺様の慈悲深ぁい趣味だ」
ニヤァッと、遠回しな表現で言っているが要約すればこうだ。
お前を犯す。
もう何が何だか分からなくなってきた。何で私がこんな目に遭うのか、人助けなんて聞えを良さそうに言ってただ自分が認められたかった、必要とされたかっただけの偽善ではなかったのか。私が間違っていたんじゃないか。
だからこんな事態になってしまったんじゃないのか。
考えるほど頭が混乱して、どうにかしなきゃと思うのに体は震えていて、涙を流すことしか出来ない自分がどうしようもなく情けなくて。
魔族が私に手を伸ばしてくるのがとてもゆっくりに感じる。
もう私は駄目なんだ……
けど、ただ……ただ1つ、願いが叶うなら私が死んだあと、誰かが叔父さんの支えになってほしい。きっと叔父さんは自分を責め続けてしまうから。
あと叔父さんにお礼がしたかったかな、私を大切に育ててくれたことに。
けど、それも叶わないんだなぁ……
そして私はゆっくりと目を閉じた。
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