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――――――
一体どれ程の時間が過ぎたのだろう……一時間なのか、二時間なのか、それともそれ以上なのか、それ以下なのか……分からない。
意識を手放すことを許されなかった私は許しを乞わず、必死に恥辱に耐えて、耐えて、耐え続けるしかなかった。
考えることを放棄していた私の脳は、今は微力な電気ショックを小刻みに与えられてるかのように震え、麻痺している。
涙が枯れるなんて比喩なんだと思っていたけどそんなことはなかった。
もうこの瞳から涙は流れでない。
そしてうっすらとぼやける眼を上げれば魔族が刀を肩に預け見下していた。
刃渡りが二メートルはあるだろう刀身が真っ黒な太刀。
もう私は用済みになったから……殺すんだ。
「中々よかったぜ。光栄に思うんだな、俺様を楽しませたことをよぉ」
魔族は満足した表情で刀を振り上げ、それを
私の下腹部に突き刺した。
全身を駆け巡る激痛に私は言葉にならない悲鳴をあげていた。
痛い……痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「うあ、あぁぅぁ……」
「良いぜその表情。痛みに喘ぎ、苦しむその姿。いつみても愉快だ」
私を…痛めつけて…楽しんでいる。血が……溢れるように…流れ出ている。
「おらよっ」
勢いよく刀が抜かれ……血が…また溢れる。それを次は太股に…次は両腕に……突き刺しては抜き…突き刺しては抜き……
気付けば……身体中…から血が…流れ出ていた……
「じゃあな、憐れな獣人族の小娘。恨むなら幸薄い自分の運命でも恨むんだな」
悔しい、殺してやりたい……けど…もう意識が朦朧としてきた……
魔族が…刀を…振り上げる……
私は…恐怖し……目を閉じた……
けれど何故か……一向に何も起こらない。そして…痛みが…少しずつ和らいでいくかのような…感覚がする。
「おいおい……何の冗談だこれはよぉ」
魔族が怯んだような声を出し…目を開けると、誰かが片手で魔族の太刀を受け止め…もう片方の手を私に向け…何かの魔法を掛けている。
それは、二本足で…大きな茶色のぬいぐるみのようで…変な形の角を生やして…
こちらに顔を向けてきて…それが何なのか理解できた。
可愛らしい顔をした……長身で…頭が大きい
鹿だった
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