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突如として現れた鹿に魔族も驚きを隠せずにいた。
「……てめぇは何なんだ?」
魔族はそう問いかけつつ太刀に力を込めるが、それは固定されたかのようにピクリとも動かない。
「…薄々感づいてるでしょう」
全てを見透かしたような口振りで鹿は答える。
魔族は勘が当たったことを恨めしく思いながら尚、続ける。
「くっ……てめぇがどうして此方にいる。まさかその小娘を助けに来たわけじゃねぇだろうな」
そうならば分が悪すぎる、だが鹿は首を縦に振りながら言う。
「…その通り」
「馬鹿な……てめぇが此方に干渉する理由がその小娘にあるっていうのか!?」
「…ない。…ただ私は私を生み出した彼の真似事をするだけ。…殺されそうな彼女を見つけ助けようと思ったからここにいる」
「偶然俺様が殺そうとしたやつがてめぇの目に止まったってことかよ……」
魔族は逃げるタイミングを測るため喋りながら隙を窺うが、鹿には微塵の隙もなく背を向ければ殺られる己の姿が容易に想像でき行動に移れずにいた。
そんな魔族を鹿はそのつぶらな瞳で捉えながら言う。
「…違う。…世界を見るなかで彼女を見つけたのは必然。…そして助けようと思ったことも必然。…その場に魔族がいることも。…全ての出来事は偶然のように見えて全て必然なのだから」
それが彼の創った世界の理、そう鹿は続ける。
その言葉に魔族はここぞとばかりに挑発に走った。
「……それじゃあ小娘を見つけたタイミングが俺に犯された後ってのも必然ってことだ。ハハッ、てめぇがあと少し早く見つけてたら小娘は犯されずにすんだのによぉ。ざまぁないな」
動揺を誘うための安っぽい挑発。一瞬でも隙が生まれればそれでいい、だがそれは逆効果だった。
「…下衆だな。…手を出すつもりはなかったけれど仕方ない」
「なっ!?」
鹿は太刀を片手で握り砕く。
「…喰らえ」
そして魔族の腹部に潜り込み拳で腹を撃ち抜き、宙に浮いた魔族の背後に瞬時に移動し蹴り上げる。
「くそ……がぁ。…ガアァッッ!!!?」
空高く打ち上げられ、瞬時に上へと現れ大きく体を反らしている鹿を睨むがその目に力は無く、振り下ろされた両拳を防げるわけもなく弾丸の様な速さで地面に叩き落とされた。
小さく出来たクレーター。そこに鹿は静かに降り立ち言う。
「…殺しはしない。…それは私のしていい事ではない。…早くこの場から消えることだ」
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