馬車のち城

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鹿にボロボロに打ちのめされながらも魔族は虚勢を張る。 「ハッ……ハハッ。ここで俺様を逃がして……後で後悔するぜ」 「…煩い、消えろ」 「……あの小娘はもう助からねぇよ。出血多量で…ゴホッ……ショック死っていうやつか」 「…私は助けると言っている」 「……ハッ、俺様にはどうでもいいこと…か。俺様は有り難く…逃げさせてもらうとするぜ」 黒い沼の様な穴が現れ、魔族が沈んでいく。 「……あばよ、神の使い」 それを最後に魔族は沼へと消えていき、沼も消えていった。 鹿は喋ることなく気配が完全に消えたことを確認してミーシャの下へと戻っていった。 「あぁ……」 鹿が近づくとミーシャが縋るように震える手を伸ばしてきた。鹿は屈みその手を左手でしっかりと掴む。 血塗れの体は死んでいると見ても間違いではないほど。先の治癒魔法で出血は止めたがこのままいけばあと数分で死に至る。それ程までにミーシャの体は冷たくなっていた。 意識を保っているのも奇跡、最早虫の息。だが手遅れではない、鹿はそう悟り、ミーシャの額に手を当てる。 「……温かい」 ミーシャに微かに生気が戻るが応急処置でしかない。傷は治せるが流れ出た血液は戻せない。 戦闘型の自分ではこれが精一杯であった。 「私……もう駄目なん…ゴホッ……ですよね?」 不意にミーシャがそう言った。とても、とても怯えるように震えながら。 「…生きたい?」 「……生きれるなら……生きたいです。…でも…もう……」 鹿の問いにミーシャは目を瞑りながら答える。 「…大丈夫。…助けるから」 鹿はそう優しく語りかける。その意味を理解できずミーシャが目を開けたとき、目の前にいたのは鹿ではなくなっていた。 「……綺麗」 何を驚くも先にそう言っていた。 俗にいう天の羽衣を着た、長髪の黒髪の少女へと変化していた。無機質な表情をした美少女であったが一つ、違うところがあった。 瞳の色が逆転していた。 そこでミーシャは思い出す。昔、天からの使者の瞳が白黒が反転していたという逸話を。 自分が何者かを理解したと悟り、少女は続ける。 「…もう一度言う。…大丈夫、貴女は助かる」
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