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え?それは……
「分からないって……大丈夫?」
「…前言撤回するよ、だからそんな可哀想な人を見る目はやめてほしいな」
良かった。本気で分からないなんて世迷い言を言ったんじゃないなら。
俺の心配をよそに、ミーシャは紅茶を一口だけ口に含み言う。
「理由はあるの。翔にね…手伝って欲しかったから」
「あの魔族を倒す……いや、殺すのを?」
「っ…………うん」
表情は平静を保ってるかのように見せようとしてもそんなに耳を動かしちゃ丸分かりだ。
流れがそんな感じがしただけなんだが、まあ……
「勘は当たってたってことか」
俺の言葉にミーシャはゆっくりと頷きポツリポツリと語り出す。
「翔の正体を聞いたとき、リンが翔ならきっと手伝ってくれるって言ったの」
まあそれが俺のお仕事でもありますからね。
「神の使いの肉体、一杯頑張ってきた。だけどあたしじゃ力を充分に引き出せない……けど時間は待ってくれない。リンが教えてくれたこのチャンス、最初で最後かもしれない。だからあたしは逃げるわけにはいかない……」
どれだけ悩んだのだろう、何を思っていここに来たのだろう。ミーシャは俯き、そして微かに震えている。恐怖からなのか、はたまた武者震いなのか。多分前者でしかない、だが言葉からは強い意志が感じられた。
撃退ではなく討伐。それのサポート。まあ……
「やるしかないわな」
「翔……」
「まあこのクエスト受けた時点で戦うのは避けられないし。けどさ、手伝うのを頼むだけであれをさ…見せる必要は無かったんじゃないか?」
そこが疑問だった。
その問いにミーシャは前と変わりなく分からないと言い、そして今度は言葉を続ける。
「不安だったのかもしれない……勝てる保証もない戦いだから、事情を知ってほしかったのかもしれない。……私達さ、友達だよね?」
予想外の質問だった。当の本人は恐れと期待が入り雑じったような笑みを浮かべている。
意図は分からないが俺は自分の考えを言う。
「俺はそう思ってる」
俺の返答にミーシャはいつもの笑みを見せて言う。
「うん、あたしも。……それが理由ってことで、ダメかな?」
多分他にも理由はあるはずだ。けど今は言いたくないのか誤魔化そうとしてる。…なら無理に訊くべきじゃないな。
「オッケー」
これが俺の今できる精一杯の対応だ。
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