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さて、のんびりとまではいかないまでも会話をしてれば時間は経つもので。キッカリとは言えないが数分後には奇襲があるのだが。
「ふぅ、落ち着きなよ」
「落ち着いてる」
「…そんな忙しなく歩いてる人が言っても説得力ないよ」
ゆったりと紅茶を飲むミーシャは正に自然体。本人曰く、昔にも似たようなことがあったから気の持ちようは心得ているだと。
俺には無理みたいだ。
できることなら今すぐ駆け出して報せて回りたい、そんな思いが浮いては沈んでいく。
そんな俺に切り替えの早い猫耳少女は諭すように言う。
「焦っても何も変わらないよ。寧ろ失敗を招くだけ。そんなんじゃ後で後悔しちゃうよ」
言ってることは正しいのにどうにも耳に入ってこない。ミーシャの精神年齢は俺の倍ぐらいに到達してるんじゃないかと思える。
「しっかりしてるね……」
「翔よかクエストはこなしてるからね」
そういう問題なのか?……いや、場数を踏んでいる。そういうことなんだろう。
お互い無言になり、相も変わらず歩き回るなか、徐にミーシャが席を立った。
「そろそろだね……」
神妙な面持ちでそう言うとフードを被り直しこちらを向く。
「被るんだ」
「うん、これはあたしが決めたことだから」
「へぇ、専用のスタイルみたいな感じか」
「ん…まあそんなとこかな。翔はもう大丈夫?」
「ああ、なるようになるように頑張る」
「ふふ、翔らし――っ!?」
ミーシャが言い終える前に街の方から大勢の悲鳴が木霊する。
「来たね」
「っ、でもなんで街から!?」
虚を突かれ声が裏返りかけた残念な俺の質問にミーシャは冷静に答える。
「あれは多分陽動、騎士団を街に向かわすためのね。急ごう」
「な、何て冷静な子や」
颯爽と身を翻し扉へと向かうミーシャを追いかけようとした瞬間、ガシャァァンとと窓の割れる音に振り向くと犬が3匹いた。
それは全身に紫と黒の逆立った毛を持ち、鋭い歯に歯茎を剥き出しにし涎をだらだらと垂らしており、目が異様に赤い大型犬だった。
正直気持ち悪い。そしてどっから来たこの犬ころども。
普通の一軒家より優に高いぞこの部屋。
そんなことを考えてると後ろから風が吹いたと思った瞬間、犬ころどもが黒い者にテンポよく蹴り飛ばされ、明かりの灯る街に吸い込まれていくように落ちていった。
「よし、急ごう」
格好良すぎますミーシャの姉御。
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