馬車のち城

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馬鹿げている、そう思わずにはいられなかった。 ただこのままでいけば皆助からない。両親が死に、ガルシアが殺され、この城の者が全員殺されてしまう。 クラウドは横に居る存在がどういうものなのかは薄々解りかけていた。 だが逃げられない。 「……分かった」 「クハッ、そう来なくちゃ面白くねぇよな」 そう笑いながらそれはクラウドの背後に移動する。 「……約束は守るんだろうな」 「あぁ、勿論だ。約束は守らなくちゃ勝負じゃねぇだろ」 無論、信じるわけは無かった。 考えが合っているならば後ろに居るのは…… 「……魔族の言葉でも今は乗るしかないのか」 その言葉にそれ…いや、魔族は愉快と言わんばかりに笑う。 「ハッ、俺様が何なのか理解した上で尚も戦うってのか。良いねぇ、面白れぇじゃねぇか」 「……行くぞ」 騎士ほどに鍛練をしていないクラウド、勝機はほぼ0パーセント。助けを待つための時間稼ぎ、それがクラウドの最善の考えだった。 振り向き、右手を前に突きだし言葉を紡ぐ。 「我は願わん。眼前に聳える我に害なす者を討ち滅ぼす力を。 我に魂の救済を、我に神の導きを。聖約に従いその姿を現したまえ"夢剣"」 もしこの場に翔が居れば間違いなく「中二!!」と叫んでしまっていただろう。 居ないけど。 詠唱を終えたクラウドの右手には何の変哲もない鞘に収まっている長身の剣があった。 「おいおい、そんなもんで俺様に勝とうってのかぁ?」 鼻で笑う魔族を無視しクラウドは鞘の先を床につけ、柄の先に両手を添えて詠唱を続ける。 「時は来た。今その力を解き放ちて我に力を、我に勝利を!!」 フッと辺りの空気が変わっていく。 全ての詠唱を終え、鞘からは光が溢れ出す。 「ほぉ…存外楽しめそうじゃねぇか」 ニタリと笑うその右手には一本の槍。血を帯びた異様な模様のされている槍は禍々しい力で空気を毒す。 「俺は……皆を守る!!」 一気に鞘から剣を引き抜く。膨大な光を放ち金色に輝くそれは色は違えど、翔の持つ夢の剣と瓜二つであった。 清気と邪気が鬩ぎ合う。それを心地良さげに魔族は笑う。 「良いねぇ。さて…殺りあおうかぁ!!」 「行くぞ!!」 魔族と王子。戦うことはないと思われた者が今、ぶつかり合う。 翔乱入、5分前。
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