馬車のち城

42/71

5171人が本棚に入れています
本棚に追加
/605ページ
―――――― 「あぁ…効いたぜおい」 翔が去った直後、魔族が立ち上がり首を鳴らしながらミーシャを睨み付ける。 「まあなんだ、取り敢えず……死ねやぁっ!!」 背中の翼で飛び上がり、急降下しながらミーシャに向かう。 空中からの高速突進、だがミーシャは軽く後方に飛び簡単に避ける。 的を失った槍は深く床へと突き刺さり亀裂を走らせる。 「そんな単調な攻撃なんて一生かかっても当たらないよ」 呆れたように言うミーシャに魔族の苛立ちは増していく。 「いい気になんじゃねぇぞ人間がぁ……」 「残念、少し違うから」 そう言いミーシャはフードを脱ぐ。 「あたしのこと覚えてる?」 「あぁ?…獣人族か。だが知らねぇなテメェなんて」 「そっか…………」 その答えに少し目を閉じる。 別に覚えているいないはどうでもよかった。意外にも対峙しても話をしても震えは起きず、在るのはただ殺意のみ。 だからミーシャは言う。 「でもあたしは知ってる。あたしはこの時を…ずっと待っていた。だから今…………お前を殺す」 漏れだす殺気、収まらぬ魔力。 見るものを震え上がらせる程の眼力を受けて尚、魔族はうっすらと口角を上げる。 「……いいじゃねぇか。来いよ、逆にぶっ殺してやるぜぇっ!?」 「もう喋らないで、虫酸が走るから」 魔族が回転し跳ねながら床を転がっていく。 魔族が喋り終える直前に、ミーシャは魔力を爆発させ瞬発力を増し、最速の蹴りを顔面に炸裂させていた。 「これじゃあ駄目……」 だが火力が足りない。現に魔族は既に立ち上がり狂ったように笑っていた。 「カハッ……ク、クハハハハハハハハハハハハハッ、効かねぇなぁ、効かねぇぜ。しかしだ…………調子に乗ってんなよこの獣がぁっ!!」 怒りに身を任せた烈火の如き突きがミーシャに襲い掛かる。 だがそれもローブを掠るだけでまともに当たらない。 「遅い」 最小限の動きで槍を躱し、一瞬の隙に魔族の腹に膝蹴りを放つ。 「当たるかよぉっ!!」 だがそれを読んでいたのか、手を翻し長柄で蹴りを防ぐ。 ジリジリと互いに譲らぬ拮抗状態に同時に二人は距離を置く。
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加