馬車のち城

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魔族は目の前の獣人には速度では勝てないことを悟る。前の翔の太ももパァーンが響いてるとはいえ、それを無しに考えても速度は互角がいいところ。 「いいだろう……俺様も本気で殺ってやる、有り難く思え」 魔族が忌々しそうにそう言うと、額の瞳が赤から金色へと変化していく。 「踊り狂え、テメェを待つのは死だけだ。『drop dead』」 「っ!?」 直後、ミーシャを包むように四方八方の空間が円形にグニャリと歪む。およそ20は在るだろうそれは中から小型の紫の槍を打ち出し始めた。 突然の全方位からの攻撃に体の動きがワンテンポ遅れ一本の槍が肩に掠る。 腕を伝う生暖かい感触、だがそれを気にする余裕を魔族は与えない。 「ハハッ、どうしたどうした、逃げられはしねぇぞ!!」 魔族の叫びとともに数を増す歪み、しかし初撃を食らったもののミーシャは狼狽えることなく華麗に避けていく。 縦横無尽に飛び交う槍を紙一重で避けながらミーシャは分析する。 空間から打ち出す数は約一秒に一本、歪みごとに微妙に異なる槍の速度、それがミーシャの観察して得た数字だった。 (抜け道はある……だけど……) 脅威的な攻撃である、だからこそチラリと視界の端に入る穴が腑に落ちない。 常人(翔)では気付けないだろうが達人に至るものには、まるでそこから抜け出せと言わんばかりに存在を示す一点がそこにはあった。 (罠かもしれない……けど他は……) 避けつつ辺りを見渡すがその一点以外からの突破を試みれば確実に一発は直撃を免れない。 危険を冒して抜け出したとしてもその一撃で機動力を失えば負けは必須。 だが罠ならその瞬間殺される。 考える時間はない、間違える=死の二択、そしてミーシャは覚悟を決め駆け出し――――― 「馬鹿が、その選択は間違いなんだよ」
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