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打ち出されるタイミング、槍の速度、全てを考慮しての刹那の瞬間を見極めた脱出。
何とか無傷で切り抜けられた、しかし罠だった。
転がり出たミーシャの真正面には既に魔族が待ち構えていた。
「なっ……!?」
自分のミスに表情を歪ませるミーシャ。即座に逃げようとするが魔族が一歩早く掌を向ける。
「壊れろ『eternal pangs』」
掌から放たれた暗雲に呑み込まれるなかミーシャの意識は遠退いていった。
――――――
「此処は一体……」
周りが全て毒々しい色をした雲のなかミーシャは歩いていく。
「確かあたしは魔族の掌から出た何かに呑み込まれたはず……」
だが何処を見ても魔族の姿はなく、王室の風景の欠片もない。
歩きながら考えて思い付くのは二つ。異空間への強制転移か……
「幻術……」
どちらかと言えば後者の方が確率が高かった。あの一瞬で異空間へ転移させるのは最早神の領域。
だがこれが幻覚とわかったところで破る術が解らずミーシャは暗雲のなかをただ歩き続ける。
そして十分か二十分か、はたまた一時間以上なのか、雲の力のためぶれた感覚が体内時計を狂わせる。
そうして宛もなく何処へとさ迷い向かうなか、声が聞こえてきた。
ぼんやりと聞こえるその声は泣いてるようで、叫んでいるようでいて、昔から聞いていたかのような声色だった。
(これは…………)
寒気がした。だが進むしかなくミーシャは声の方へと歩いていく。
そして一歩一歩進むごとに遠くに二人の人間らしきものが見えてきた。
一方は笑い、一方は嘆いているその声に微かにミーシャの足が震えた。
ゆっくりと歩を進め、そして二人の顔が分かる位置まで来て理解する、そこで何が起こっていてそれが誰なのか。
「いやぁ……もう…やめ…て……あっ……助けて…誰か……」
「誰も助けになんて来ねぇよ」
「やだ……誰か……あ……誰か……助けて……」
理解したその時、ミーシャはこれが幻覚だということを確信し目を逸らすしか無かった。
幻覚なら逃げても無駄だと解っていた。
だからこそ必死に自分に大丈夫だと言い聞かせる。これだけなら頑張れる、堪えていれば必ず翔が助けに来てくれる。
そう信じ、目を閉じ耳を塞ぎ彼女は堪えることを選んだ。
悪夢がまだ始まったばかりとも知らずに。
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