馬車のち城

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「んだこれはっ!?力が出ねぇ!?」 俺の創造力がある程度まで達していればあいつはもう逃げることも攻撃することもできないはずだ。 ミーシャを見ると拘束が解けたらしく、床に膝をついていた。 「大丈夫か?」 すぐに駆け寄り声をかけると、ミーシャはこちらに顔を向け、少し苦しそうな顔をしながらも言う。 「何とか…あれは……翔が?」 「ああ、今は微塵の抵抗もできないはずだから」 それだけ聞くとミーシャはすっと立ち上がり、一歩踏み出し俺に聞いてきた。 「翔は止めないんだね……」 それが魔族を殺すことだとわかったが、それを止めはしない、というより俺には止める権利などない。 ここで思い留まらせることが普通なのかもしれない。 だが復讐はいけないなんて、当人の気持ちも事情も知らない奴の綺麗事に過ぎないのというのが俺の考えで、少なくとも彼女の過去を視た俺にはそんなことできない。 だから俺は言う。 「ああ、止めはしない。友達が決めたことは基本的に応援する質だから」 その時、ミーシャの体がピクリと動き、彼女は小さく、とても小さくありがとうと、ぎりぎり聞こえるほどの声で呟き魔族へと向かっていった。 「ふざけんじゃねぇっ!!テメェ みたいな獣風情のカスが俺様を殺すなんてあっていいわけがねぇんだよ!!くそが、外しやがれ!!」 ゆっくりと、確実に迫る死に途方もなく叫ぶ魔族へと、ミーシャは冷たく言い放つ。 「残念だね、お前はその獣風情のカスに殺されて終わるんだよ。可哀想に、そしてさようなら――――」 深紅の短剣が振り上げられ、魔族の胸めがけて突き刺さろうとしたとき、ミーシャの腕が寸前で止まった。 「なっ……」 何処から、何時の間に現れたのか全く気付かなかった。 ミーシャの腕は一人の男に掴まれていた。 その男は体の線は細く白のワイシャツにネクタイ、その上から皺ひとつないぴっちりとした黒のスーツを着ており、しっかりと整えられたセミロングの黒髪はまるでセールスマンのようであった。 そして男は特徴的なキツネ目を俺たちに向けながら恭しく言った。 「どうも、仙道照之と申します。以後お見知りおきを」
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