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視線の先で力なく頭を垂れている魔族。今なら瞬殺できる、だが近づけない。
ミーシャは警戒したまま仙道に言う。
「信用できない、貴方のさっきの言葉が真実ならなおさら」
「ああ、この襲撃のこと。確かに僕が主犯なんだけどね……」
そう言うと仙道は思い出すように喋りだした。
「彼が力を欲していたとき偶然出会ってね、『ヴェトラ』を与えたんだが信用されなくって、力を試す場を僕は提供しただけなんだよ。しかし、予想以上に暴れられてね。事前の準備として情報操作やらと、あれは骨が折れたのに意味がなかった」
首を鳴らしながらあれは疲れましたと笑う仙道にミーシャは恐怖し、その感情は次第にそれを上回る怒りへと変わっていった。
「そんな理由でこの街を襲ったなんて……許せない」
怒りを露わにするミーシャに仙道は両手を前にだし待ったをかける。
「いや、襲わせたのは事実だが今のところ死人は誰一人として出ていない。信用できないかもしれないけどね」
「ふざけないでっ、これほどの規模の事態で死者が出てないなんて有り得ない!!」
状況から有り得ない嘘だとミーシャが声を荒らげるが、仙道は落ち着いた様子で手を横に振る。
「いやいや、そうでもないんだよ。不要な死人を出さぬようこちらも手筈は整えてあった。僕は彼とそこの少年、戸神翔とを戦わせることだけが目的だったからね」
「翔を!?…………って翔?」
先ほどからいやに反応のない翔が心配になり横を見ると当の本人は微かに揺れながら目を半開きにさせながら寝ていた。
「ん……うぉ、いかん…寝ちまった……」
「なんで寝てるの……」
ミーシャに白い目で見られ翔は焦り弁解を始める。
「え、いや、眠気がピークでして…………」
「仕方ないよ、その力は人には過ぎた代物だからね」
翔をフォローするかのように言う仙道。だがその姿を見て翔の頭上には?が浮かぶ。
「だ…誰だあんたはっ!?」
その発言にミーシャはとても冷めた目を翔に向ける。
「……何時から寝てたの」
「え、あの、そのですね……そうだ!!思い出した思い出した、仙道…さん?まあいいや、仙道さんだ!!」
思い出せたと晴れやかな顔をする翔の場違いな挙動に、仙道はくつくつと笑う。
「ふふっ、面白い少年だ。だが礼儀は心得ているようだ。これなら話もすぐに済みそうかね」
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