馬車のち城

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「お前、ミーシャに!!」 「まあ待ってほしい、これは正当防衛だよ。現に彼女は気絶してるだけだ」 確かに気絶しているだけのようで、少なくとも大きな怪我をしてるようには見えなかった。正当防衛ともいえる、だが翔に疑心を生じさせるには十分だった。 「参ったね、こんなことになるとは。こんな状況になってしまったが話を聞いてくれるかな?」 「その前に、俺の前任の人を殺したってのは事実で?」 染みついた敬語は消えぬが翔は警戒しながら訊ねる。 「ああ事実だ」 「そうですか、じゃあ……話すことなんてない」 「……ふぅ、仕方ない。今回は顔見せだけにしておこう。それでは最後に君に教えてあげよう」 そう言うと仙道が足元から消えていく。 「悪い奴を倒す、あながちそれは間違っていない。だが君が最終的にすべきことはある人物を殺すことだ」 「何を言って…」 翔が冗談だろと言おうとしたとこで仙道がそれを遮る。 「冗談ではない、その人物というのが僕のことさ。僕としては君を殺すつもりはない、だからこその話だったんだが……まあいいとするよ、僕たちは帰らせてもらう」 言い終わる頃には仙道の体は半分以上消えかけていた。 「ま、まだ訊きたいことが――」 「また会おう、戸神翔君」 翔が手を伸ばした先には何もなくなっていた。 「どういうことだよ…ダメだ、疲れて考えられない……」 同じ使いを、そして同じ地球の、しかも人間をいずれ殺すことが自分の仕事。疑問が浮かぶばかりで考えられずに翔はミーシャのもとへ走った。 「ミーシャ、ミーシャ!!」 ぐったりと倒れこんでいるミーシャの肩を抱き上げ必死に揺する。 「ん……かけ…る…?」 「良かった…大丈夫か?」 「っ!!あいつは!?」 急に跳ね起き辺りを確認するミーシャに翔は言う。 「よくわからんけど、とにかく帰ったよ」 その言葉にミーシャは緊張の糸が切れたようにふにゃふにゃと床に座り込んだ。 「ホント大丈夫か?」 「…………」 ぼんやりとした瞳で自分を見るミーシャ。翔の問いに答えることなくミーシャは黙り、そして不意に倒れこむように翔に抱きついた。 「ぬおっ!?え、ちょ…ミーシャさん!?」 「……良かったぁ」 その言葉に翔は思う。両親を失い、復讐を考えながら生きてきた少女はたとえ家に住みついた自分のような友人でも失うことを恐れる優しい子だと。 だから翔も感謝の意を込め小さく呟く。 「ありがと……」
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