馬車のち城

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「それで、どったの?」 闇夜に、黒いローブにフードの姿は景色と同化していて見にくいが、ミーシャのほうを見るとあっちも俺のほうを見ていた。 目と目が合い、ミーシャは徐に言う。 『……時間もないし言うけど、翔の力のことも私……リンから聞いてるんだ』 それはつまり、力のことというと……瀕死のこともか。 「あぁ、そういうこと……此処まで来たら止めないし、止めれないぞ」 『それは分かってる……だから一つだけ。絶対に一緒に帰るよ、約束だから…………死ぬなんて許さない』 「ん、善処するよ」 『そんなこと言ってるとご飯ずっと抜きにするからね』 「くはっ……それは非常に困る……分かった、絶対に帰るよ」 『うん、待ってる……』 そして俺たちは合わせたわけでもなく、通信機を同時に切り、そして懐に入れた。 死んだら……か。 そこでふと考える。一回死んでる身、ならば余計に死を怖がるのが当然。 けど今はどうだろう、この死ぬかもしれない状況で死ぬことを怖いと思わない。いや……違う、怖いと思うことができない、怖いと感じることができない。 剣を使う最中、頭の中から『死』の単語がポロリと抜け落ちたように、何も感じない自分がいた。 「狂ったのか俺は……?」 思えばこの力を使うとき躊躇ったことが一度もない。 体への負担もでかい、回数を重ねれば死ぬことだってあり得るこの力を。 それなのに何で、使うことを躊躇しない?何で恐れない?何で………… 「改造でもされたか?ははっ、今さらか…………笑えない」 上を見る。もうすぐ完成といったところか。周囲から引き寄せられる大地は丸く形作る作業に入ったようだ。もう考えるのは止めよう。今は集中しなければ。 左手を胸に当て念じるは、一人の異星人が己の欲望のために世界を何度も創る過程で、幾度となく世界を滅ぼした破壊の剣。 存在する確率を操作し、全てを消し去る最強の確率歪曲宝貝。 「ふぅ、頼むぞ…………四宝剣!!」 さてと……これで最後だ。
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