城のち街

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「仙道照之、彼は……」 話し始めようとしてリンさんは言い淀んだ。その表情を曇らせながら。 「…その前に、少し、昔話でもしましょうか」 優しく微笑むその表情は、さっきより悲しげで、それが仙道照之の話だと薄々だがそう思い俺は頷いた。 「一人の男と一人の天の使いが宛てのない旅をしていました。旅の途中、ある国に二人が訪れました。税は重く、民は虐げられる悪政がはびこる国でした。彼はその光景に嫌悪し、何とかできないかと王への謁見を申し出ますが当然のごとく却下されました。憤りが収まらぬ帰りの途中で、なんとなしに寄った商業地区で彼は細々と木細工を売る少女と出会いました。そして――――――」 そこからの話は、何の変哲もない、他愛のない男と少女の恋物語だった。 少女の名はセラといい、日を重ねていくなか、惹かれあい、互いを愛し始めた二人。 それを使いである女性がただ温かく見守り皆で過ごすという、どこにでもありそうな日常を描いた恋愛小説のようであった。 けどそこからあの人を殺さなくてはならない理由なんて見当たるわけもなく、だからだろうか?ハッピーエンドを想像できなかったのは。 「――――――その日も、彼は少女に会いに行きました。そして三人でお菓子を食べ、談笑し、ただゆっくりとした日常を過ごす―――――はずでした」 この世界では場所によってはよくあることらしい。 「いつもの場所に商品が無残に破壊されており姿も見当たらず、尋ね歩くも誰もがなぜか言葉を濁す中、一人の少年が彼の裾を引っ張り小さく言いました」 何の前触れもなしに、兵士が有らぬ言いがかりをつけ 「『兵士が三人でお姉ちゃんのお店を壊してあっちに連れて行った』と。彼はすぐに少年の指差したほうへ向かいました」 女性を貶し 「そして人気のない路地裏で見つけた彼女はすでに……」 辱めることが
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