城のち街

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「暗がりの中、二人の兵士と、路上に仰向けで泣き入る彼女を見て、一番近くにいた兵士を声を上げさせることなく、彼は高密度の魔力を手に纏わせ首を切り落としました。そのまま二人目を殺そうとしたところで、焦ったようにその兵士が彼女を乱暴に立ち上がらせその喉元に剣を突き付けました」 ドラマで見るような悪役のする行為を、国を守る兵が平気で行う。昔といえども、腐ってるとしか言いようがない。 「その時になって彼女は、愛する人が目の前にいることに気づきました。そして一瞬泣き止み、そしてまた涙を流し始め、彼もまた彼女にやさしく微笑みかけました」 …現代っ子はあらゆる出来事にフラグという言葉をやたらに使いたがるが、これは俺も…… 「彼に人質は無意味でした。左手の人差し指をその兵士の頭部に向けた瞬間、光線が一条、彼の手から放たれ兵士の頭を突き抜け、兵士は声もなく倒れ絶命しました。解放された彼女は彼へと――――――彼の背後へと走り、彼を庇うように手を広げ、斬られました」 リンさんが淡々と話すのはきっと俺のためな気がした。 それでもいやな話には変わりはないけれど。 「彼は失念していました。兵士は三人だということを。最後の兵士は彼女を斬ったことに驚いた表情のままその人生を終えました」 …………。 「誰の目にも手遅れだと分かる傷で、最期の力を振り絞り掠れる声で彼女は『ごめんなさい』と、そして『愛してます』と彼に告げ、その短い生涯に幕を下ろしました。翌日、その国の王族、騎士、兵士だけが皆、死体となって発見されました。それから彼らの姿を見た者は誰一人としていませんでした。…………話はこれで終わりです」 ……人を本気で愛したことのない俺にはあの人がどんな気持ちだったか想像できない。 けどそれが、父さんと母さんが死んだあの時、理解ができず何もかもを恨んでいたあの時と同じようなものだとしたら………… 事故だとしても、両親を轢いたあの……そう中村だったか。 あの人がもし、一切の謝罪の言葉もなく父さんと母さんの死を嘲笑うような屑だったら、俺もあの人を殺す可能性も在ったのだろうか………… 俺の心を読んでか読まぬか、リンさんは愁えをおびた顔で言う。 「愛は人を狂わせます。それが濃ければ濃いほどに……。それはもとは人間だった彼もそうであり、私たちも例外ではありません」
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