城のち街

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「ふぅー、あったけぇー」 腰にタオルを巻き、頭と体を丹念に洗い湯船に浸かる。 兵士用なのか銭湯よりももっと広い大浴場に、入ってるのは一人だけ。 実に優雅な気分だ、まあ落ち着けるから隅っこにいるのだけれども。 「はぁ……んぁ?」 泳いだりしなければ広い浴場ってのはとても静かで。 半端じゃなくリラックスし、ボーっとしていると脱衣所の方から音が聞こえてきた。 そのまま扉の開く音がし、足音的に多分一人、体を洗い始めた。 俺のいる位置からだと姿が見えず、あちらさんも気づいていないはず。 ……何だろうかね、一人から二人に増えただけでこんな窮屈感を覚えるとは思わなかった。 知らない人間とだだっ広い浴槽で二人とも無言で過ごす、なんと気まずいことか。 「……出るか」 即決だった。リラックスできない風呂など風呂ではない!! そうしてなるべく静かに立ち上がり、浴槽から片足を出したところで左手に人影。 遅かったか!?そう思い形だけでもと会釈をしようとして目があった。 「ぬっ!?戸神、こんなところにいたのか」 「ガルシアさんじゃないですかっ」 良かった、知り合いだ、普通に知り合いだ。前言撤回、もう少しのんびりさせてもらおう。 「貴様が化けて出たと城内で騒がれていたが……まさか本当に化けて出てたとはな」 湯船に並んで浸かり近況を聞けば、やはり俺は一部では死んでるものとみられていたらしく。 「いやいや、生きてますから俺」 やっぱり幽霊みたいに見られてたのか、泣けるぜ。 「冗談だ、貴様は死んではいないとミスト……いや、ミーシャか。彼女は断固として認めていなかったからな」 ミーシャ……いい子や。 「私が最悪の事態もあると言ったら逆鱗に触れたようでな。彼女がああも感情的になるとは、驚いたよ」 天井を見ながらガルシアさんはふっと笑った。何が可笑しいのか、わからん。 「あれ、フーや、千夜は?あっ、フーってのは小っちゃい妖精のことです」 「あぁ、あの二人か。『死ぬわけがない』そう言っていた」 おおっ!! 「笑いながらだがな」 「あぁ……」 信じてくれてるというより楽観思考なだけかあの二人は……
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