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「君はそう捉えるんだね……」
少し呆れたようにミーシャは言う。なぜため息交じりなんだ、間違ってはないだろ。
「捉えるも何も、俺の中ではそうでしかない」
語尾を強め、そう断言するとミーシャは参ったとでもいう風に笑う。
「翔はさ…私のことを過大評価してるよ」
「違う、信頼してるんだ。あれだ、俺たち家族なんだろ?家族なら信じるのが普通でしょうが」
間髪入れずにそういうと、一瞬間が空きミーシャが呟く。
「そう…だね、家族…なんだよね……」
「ああ、ミーシャが言ったんだろ」
あの発言がなければ俺もこんな歯の浮くようなセリフは言わない。高い所から飛び降りたくなるから。
けどこれで良かったらしく、ミーシャは家族の二文字を復唱し、潤んだ瞳をこっちに向けてきた。……何だ、凄いドキッとした。
「殺人者を家族って言うんだから、翔も大概に馬鹿だよね」
おぉ……さらっと酷いこと言われた。ちくしょう、俺のドキッを返せ。
「何を言うか、ミーシャは震えるほどの家族愛が描かれた小説でも読むべきだ。翌日から考え方が変わるから」
あれを読んだ後、ぼろぼろと一人泣き続けていたのはいい思い出だ。もうあの頃には家族はいなかったけど、いや、だからこそ俺もあそこまで泣けたのかもしれない。
そして俺は多分、言葉で、本心で家族と言ってもらえたことが嬉しかったんだろう。色褪せた記憶が、両親と暮らしていたあの暖かい空間がまた取り戻せると思って。
それを取り戻したくてミーシャを肯定してるだけだとしたら…………何だ、それなら俺もずるいじゃないか。
「どうしたの?」
急に黙ったせいでミーシャが覗き込んでくる。こんなに他人を気遣える子が苦しまなかった訳がない。
「ん、ただ俺の方がずるいんじゃないかってね」
「え?」
「何でもない。まあ訊いといてなんだけど、ミーシャが殺人者だろうと変態だろうと、ミーシャはミーシャで、家族だ。それでこの話は終わろう」
強制終了、自己完結。
「適当で、勝手だね」
ミーシャは感情の籠ってない声で言う。
「返す言葉もありません」
「けど」
声に色が付いていく。無色から軽やかに、鮮やかに色付いていく。
「翔のそういう優しいところ、私は大好きだよ。もちろん、家族としてだけどね」
……うん、ニアミス。
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