5171人が本棚に入れています
本棚に追加
――――――
ここまで二人で話すというのも、思い返してみると初めてだった。
いや、話すというより俺がミーシャの喋ることに相槌を打ってるだけなんだけども。
「私も逃げるわけにはいかなかったから…………これで終わったのかと思うとなんか……よくわからないや」
彼女は今までの事を、魔族、そして自分の思いを吐露していた。
嬉しそうな、悲しそうな、そんな表情でミーシャは俺ではない何かを見ていて。
どんな思いで過ごしてきたのか俺には分からないけど、それが彼女を縛り、苦しめていたことは分かる……いや、軽々しく分かるなんて言うべきではないか。
魔族という鎖から解放され、昔のような日常を過ごす。時間は必要だろうがミーシャには彼女を待つ人がいる。だから自分を見失うことはなく、前へと進んで行ってくれる筈だ。
店長さんも、マスター率いるギルドの皆もいる、フーも、微力ながら俺もいる。これからミーシャが辛い記憶を忘れるぐらい、充実した、心から楽しいと思える日々を過ごせる未来がある筈だから。
だから今はその必要な時間だと思うから、そっとしておくというのが積極性のない俺の意見で。
「…………そっか……」
もう格好良いこと言えない。
「翔って思ったより聞き上手だったんだね。ありがと、聞いてくれて」
優しく笑うミーシャ。少しでも役に立てたなら良かった。
「いえいえ」
「なんか眠くなってきちゃった。私も……ちょっと寝ようかな」
さっきよりも柔らかな笑みの後、小さく欠伸をするミーシャはとても眠そうで、俺もこれ以上訊く気もなく。
「ああ、お休み」
「うん、お休み……」
それから1分と経たぬ間に隣からすやすやと寝息が聞こえてきた。
上を見上げ、何とも言えない感傷に浸っていると、視界の端に光る何か。それはミーシャの頬をすっと流れ落ちていった。
それが涙とすぐ理解するも何に対しての涙か、復讐が終わり安堵したのか、それとも遣り切れない思いからなのか、昔の夢でも見ているのかと無粋にあれこれ想像して、結局分かる訳もなく、眠くなり、俺も寝ることにした。
最初のコメントを投稿しよう!