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――――――
森の中の獣道を抜けていくと開けた空間に出た。
円形に木々で囲まれ、小さな、とても澄んだ色をした池の前には、色取り取りの花に囲まれた二つの墓碑。
時間の関係か、差し込む光がそこを絶妙に幻想的な空間に変化させている。
「こんな場所があったとは……」
声が漏れ、ミーシャがクスリと笑うとお墓に近づいていく。
「叔父さんが、ここなら誰も荒らさないって選んだんだ。二人がゆっくり眠れるだろうって」
そこまで聞いてやっと理解した、これ等が誰の墓なのかを。
「俺が来て良かったのか?」
訊いて、ミーシャにジト目で見られ愚問だったと理解する。来てほしくなきゃ連れてくる訳がない。
「すまん……」
「いいよ、今日は翔をお父さんとお母さんに紹介しに来たんだから」
そう言い、彼女は墓碑の前で腰を屈め優しい声で語りかける。
「お父さん、お母さん、私の新しい家族の翔だよ」
「えっと、戸神翔です。初めまして」
頭を下げ自己紹介。
「あともう一人、女の子もいるんだけどその子とはまた今度来るから」
フーのことだろう。今頃飯かと想像してると、ゆっくりとミーシャが立ち上がり俺の方を向く。
「少し時間いいかな、二人に報告したいんだ」
それが魔族の事だとは重々承知で、俺は頷く。
「何時間でもどうぞ」
「……ありがと」
仄かに笑い、ミーシャは墓碑の前に座り目を閉じた。
空を仰げば、もうすぐ正午なのか日が真上に来かかっていた。
考えてみれば、俺はもう両親の墓参りには行けない。誰も訪れず、汚くなっていく両親の墓を想像するとどうにもやるせない。こちらに墓を建てるのもありかもしれない。
父さんも母さんも俺を心配して来てくれるかもしれない。そんなことを考えてる間に、ミーシャは既に両手を後ろに回した状態で立ち上がり俺を見ていた。
「あれ、もういいのか?」
「うん、もう大丈夫だって伝えたかっただけだから」
「……そっか」
「やっと……やっと言いに来れたから。これも全部、翔のおかげだよ」
太陽みたいに晴れやかな笑顔をされ、俺は照れ隠しに空を見上げ頭を掻くしかなかった。
眩しいなホント。
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