街のち帰宅

8/11
前へ
/605ページ
次へ
―――――― 森の中の獣道を抜けていくと開けた空間に出た。 円形に木々で囲まれ、小さな、とても澄んだ色をした池の前には、色取り取りの花に囲まれた二つの墓碑。 時間の関係か、差し込む光がそこを絶妙に幻想的な空間に変化させている。 「こんな場所があったとは……」 声が漏れ、ミーシャがクスリと笑うとお墓に近づいていく。 「叔父さんが、ここなら誰も荒らさないって選んだんだ。二人がゆっくり眠れるだろうって」 そこまで聞いてやっと理解した、これ等が誰の墓なのかを。 「俺が来て良かったのか?」 訊いて、ミーシャにジト目で見られ愚問だったと理解する。来てほしくなきゃ連れてくる訳がない。 「すまん……」 「いいよ、今日は翔をお父さんとお母さんに紹介しに来たんだから」 そう言い、彼女は墓碑の前で腰を屈め優しい声で語りかける。 「お父さん、お母さん、私の新しい家族の翔だよ」 「えっと、戸神翔です。初めまして」 頭を下げ自己紹介。 「あともう一人、女の子もいるんだけどその子とはまた今度来るから」 フーのことだろう。今頃飯かと想像してると、ゆっくりとミーシャが立ち上がり俺の方を向く。 「少し時間いいかな、二人に報告したいんだ」 それが魔族の事だとは重々承知で、俺は頷く。 「何時間でもどうぞ」 「……ありがと」 仄かに笑い、ミーシャは墓碑の前に座り目を閉じた。 空を仰げば、もうすぐ正午なのか日が真上に来かかっていた。 考えてみれば、俺はもう両親の墓参りには行けない。誰も訪れず、汚くなっていく両親の墓を想像するとどうにもやるせない。こちらに墓を建てるのもありかもしれない。 父さんも母さんも俺を心配して来てくれるかもしれない。そんなことを考えてる間に、ミーシャは既に両手を後ろに回した状態で立ち上がり俺を見ていた。 「あれ、もういいのか?」 「うん、もう大丈夫だって伝えたかっただけだから」 「……そっか」 「やっと……やっと言いに来れたから。これも全部、翔のおかげだよ」 太陽みたいに晴れやかな笑顔をされ、俺は照れ隠しに空を見上げ頭を掻くしかなかった。 眩しいなホント。
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加