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「さて、あんまり話してるとスフィアが怒りそうだし、二人とも、行っていいわよ」
空になったジョッキを下げるエアリィさんに一礼。この人の助けがなかったらどうなってたか。
そんな俺たちにエアリィさんは横に手を振る。
「いいのよ、子供を助けるのが大人の役目なんだから。もっと頼りなさい、大人を」
そう言い言葉尻にウインクすると、別のジョッキを持ちハンクさんのもとに向かっていった。
「色んな人に心配かけてますな」
ふと思い、何気無しに言ったのだが嫌味にとられたらしい。ミーシャがむすっとした顔で睨んできた。
「私だけ悪いみたいに言って、翔だってそうなんだから」
「いや……」
俺は短いからどうかね、と出かかった言葉を飲み込む。また怒られそうだし。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。さっさと行こう」
「戸神とミーシャです」
二度目の来訪。ドアを開けると何故か冷気が脇を駆け抜け、氷の中に燃える様な朱の入ったオブジェが眼前に君臨していた。これは?…あぁ、寒そうに……
「来たか、それは無視していいからこっちに来い」
マスターの声にオブジェの横を抜け出ると、長短姉妹が立っていた。
相変わらず並ぶと親子だなホント。
「何か言ったか?」
「いえ別に」
「まあいい。それより、あれだな、なんというか、何故だ、ミストが来てないな。どこにいるんだ」
「…………」
わざとらしくきょろきょろと周りを見渡し、耳を疑うほどの棒読み。これは酷いな。声を大にして茶番乙と言ってやりたい、けどできない。
レイアさんはというと必死に口を押えて笑いを堪えてる、俺もきつい。だがミーシャは違った。
真剣な表情で一歩前へ出ると一枚のカードを取り出し、それをマスターに差し出した。
「マスター、私はもうミストとして生きてくことはやめます。だからこれは返します」
マスターが無言でカードを受け取る姿は、さながら落としたカードを拾ってもらった小学生に見えて。……やばい、想像したら笑えてきた。
「……もういいのだな?」
「はい」
「そうか……」
いかん、シリアスな場面なのに身長差のせいで笑いが……
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