帰宅のち日常

9/48
前へ
/605ページ
次へ
「えっと、今の質問は…」 「ああ気にしないで。俺が毎回依頼者になんとなしに訊いてるだけだから」 嘘だけど。 「で、依頼の前に訊きたいんだけど、俺の名前何で知ってるんだ?」 すると少年は意外そうな顔をして言う。 「戸神さん、有名ですよ。妖精の召喚士でひっそりと天心に住み着いてる人って」 なにその妖怪みたいな噂。どうでもいいけど。 「おっけー、じゃあ次は依頼について」 「それは……」 少年は急に顔を赤らめ、俯きポツリポツリと話し始める。 「僕、好きな人がいるんです……」 そこで途切れる言葉。期待したように俺を見つめるフィッツオレンジ君。……相槌打った方がいいのか? 「……へぇ」 「それでですね」 正解か。 「今まではその人を見ているだけで十分だったんです」 「ふむふむ」 「けど、僕も今年で15歳になります」  「15、青春だね」 ちなみに俺は今年で18。まだ、まだ青春時代だ…くそっ。空しさを覚える中、フィッツオレンジ君は一旦息を深く吸い込み続ける。 「ですから、いい加減遠くから見てるだけの自分を卒業したいんです」 「あるある」 「でも僕は弱虫で、意気地がなくて……」 「ほぉほぉ」 「でも一歩進みたくてっ」 「良いことだ」 「ですのでっ」 「ん?」 唐突にテーブルに手を置き、綺麗なサラサラの茶色の髪が荒ぶる勢いで頭を下げてきた。 「戸神さんに手伝ってほしいんです!!お願いします!!」 つまるところ恋愛相談か……頼む相手間違えちゃあいないか? 「そのだな「お願いします!!」…………」 近年稀にみる純情少年だな。どこぞの奥手な王子様を思い出すよ。そういや千夜の調査しないとなぁ。 「お願いします!!」 俺が他の事を考えてる間も頭をテーブルに着け必死に頼むフィッツオレンジ君。 まあ、俺を指名してくれたわけだし、無下にもできんか。 「わかった、わかったから頭を上げて」 俺の言葉に顔を上げ、フィッツオレンジ君は喜色を浮かべていた。 「本当ですか!?ありがとうございます!!」 「うん、大丈夫だから。取りあえず顔が近い」 「す、すみません……」 「いいよ、で、誰?」 するとまたも、もじもじし始め驚愕の名を口にした。 「そのですね……戸神さんもよく知る人なんです」 「ふむ、分からん」 「えっと、僕が好きなのは……ミーシャさん…なんです」 あぁ、ミーシャ。へぇ……こいつぁたまげた。
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加