帰宅のち日常

10/48
前へ
/605ページ
次へ
―――――― 「君も面白い依頼を受けるね」 「自分でもびっくりですよ」 結局依頼は引き受けた。俺がこの手に持つ手紙を、『○○君、直接渡すの恥ずかしいから△△君にこの手紙渡して』パターン。 ミーシャが人気あることは知ってたけど…何だろう、喉に何か詰まってるようなこの感じ…… 「どうかしたかい?」 目を閉じながらのんびりと皿を拭くマスターに、少し相談しようとしたその時。 呼び鈴が激しく鳴り、一人の少年が入ってきた。 「兄ちゃん!!来てくれたんだな!!」 喫茶店には場違いな大声だったがマスターも俺も微笑む。 街を駆け回るちびっこの中心核の10歳。名はシア、アリシアからとったらしく、短髪で中性的な顔立ち。青の髪に青の瞳はこの大陸では珍しいらしくアリシア曰く、『他大陸の商人が捨てた可能性が高い』と。 その時、悲しさと怒りが混ざったような苦しそうな顔をしてたのは忘れない。彼女は本当に子どもが好きなんだと、あの時再認識した。 だがそう言うアリシアも孤児で、だからこそ今の道を選んだ、そう言っていた。 前は弱そうだなんだ言われたが、四日前、教会に出前を届けてからなんやかんやで一緒に遊んで懐かれて。 「兄ちゃん、兄ちゃん、依頼ってのはな」 今では嬉しそうに身を乗り出して……弟がいたらこんな感じなのかねぇ。 「まあ待て……マスター、ジュースとクッキーをお願いします」 「畏まりました」 笑顔でそう言い、マスターが店の奥へ消えていく。だがシアは急に不安を露わにして。 「え、でも、俺お金持って……」 代金の心配ときた。まったくこの子は。 「気にするな、兄ちゃんの奢りだ」 「兄ちゃん……でも、俺だけ食べるのは……」 流石ちび達の一番上。 「じゃあ今度お菓子持ってくから。それでいいだろ」 「ん…でも……」 俺の説得にどうにも渋るシアに、トンと横からクッキーとジュースが置かれる。 「遠慮するのが悪いこととは言わない。けどね、子供は甘えていいんだよ」 優しく笑いかけ去っていくマスターに俺も続く。 「そうだ、気にするな」 そう軽く頭を撫でると、数秒の後、ようやくシアは観念してクッキーに手を付ける。 「美味いか?」 「うん」 「そっか」 「兄ちゃん」 「ん?」 「みんなにも……」 「わかってる。ほら、気にしないで食べな」 「うんっ」
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加