帰宅のち日常

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「まあいい、シアの頼みだし頑張ってみよう」 「ほんとっ!?ありがと兄ちゃんっ!!」 成功もしてないのにこんなに喜んじゃって。 「直ぐにとはいかないがいいか?」 「全然いいよ、兄ちゃんがいれば百人力だよ」 何でこんな期待されてる俺。一頻り喜んだあとシアは落ち着きを取り戻し言う。 「授業抜け出してきちゃったしもう帰らないと」 「そっか」 いや、それは後で俺が怒られるのでは? 「兄ちゃんも来ない?」 「いや、少し用があるから」 「そうなんだ……」 子供というのはコロコロと表情が変わる。シアがしょんぼりした表情になりとても胸が苦しい。何この罪悪感。 「あれだ、明日行くから。お菓子持っていくから」 「ほんと?」 「ああ、絶対だ」 そこまで聞いてシアは子供らしい笑顔を浮かべる。 「約束だからね、えっと、ごちそうさまでした」 ぺこりとお辞儀するシアにマスターは笑顔を返す。 「また来なさい」 「はいっ、兄ちゃん、また明日っ」 「また明日」 元気に手を振り勢いよく扉を開け出ていき、溌剌と街を駆けるシアを窓越しに眺め一息。 「本当のお兄さんのようだったよ」 食器を下げるなかマスターに言われ頬をかく。そう見えたのなら素直に喜ぶべきか。 「いやしかし、君も大変な依頼を受けたね」 「色んな意味で大変そうです。また明日、相談に来てもいいですか?」 こういうのは信用できる年長者の意見を訊きたい。するとマスターは快く引き受けてくれた。 「私で良ければ話を聞こう」 「有難うございます、えっと、それでクッキーとジュースの値段の方は…」 財布を取り出しつつ訊くとそれを手で制される。 「マスター?」 「お金はいらないよ。兄が世話になったようだからね、そのお礼とでも思ってくれればいい」 既に知ってましたか。 「でも」 「いいから」 それでもやっぱり出そうとするも、笑顔で恐ろしい力で押さえつけられる。お、重てぇ……出せない。 「ここを贔屓にしてくれればいいよ」 そう言われ今度は俺が説得される形となり。 「…分かりました。また来ます」 「またのご来店を」 マスターに見送られ俺は千夜の恋愛状況調査に繰り出した。 さて、誰に訊いたもんかね。
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