帰宅のち日常

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―――――― 夜が更け、皆が寝静まった頃。天心の二階の一室で、少女が一枚の手紙を真剣に読んでいた。 「翔が……私に…………」 翔の落とした手紙を夕食前に自分を抑えられずつい読んでしまい、ミーシャは頭が真っ白になっていた。 夕食時には自分らしからぬ行動もしてしまい、何が何だか分からなくなり遂には寝れないでいた。 少女はもう一度手紙を読み返す。その文面から、以前から偶にだが、そういう類の手紙を貰っていたミーシャは間違えることはなかった。ミーシャも良く知る告白スポットへの呼び出し。経験上間違いない。 ――――――確実に告白される。 「どうしよう……」 言葉遣いが妙に丁寧だが、そこから翔の真剣さが伝わってくると言えばそうであった。 自分を受け入れ、家族だと言ってくれ、共に戦ってくれた少年。その少年が自分に告白。 ――――――分からない。 それがミーシャの本心であった。 落ち着き始めた日常にふと到来した嵐。それはミーシャの心をぐちゃぐちゃに掻き混ぜていく。 もし断ってこの日常が壊れてしまうならば、全力でそれは避けたい。けど翔のことが好きかと訊かれたら分からなかった。 無論、ミーシャは翔が好きである。だがそれは家族として好きというだけで、異性として見てはいなかった。 いや、見ない様にしてるだけかもしれない。 全ての本が本棚から飛び出した図書室のように、乱れた気持ちは整理もままならず、もう一度ミーシャは手紙を読む。 告白の日時は明後日のお昼過ぎ、時間は余りない。 巡り巡る渦のように、自分では纏まらないこの感情を誰かに相談したい、聞いてもらいたい。そう思うミーシャの脳裏に浮かんだのは一人の女性。 ――――――レイアさん。あの人なら親身になって聞いてくれるはず。そう決断し、どこか落ち着いたミーシャは小さく欠伸をした。既に悩み初めて一時間は経っていた。 もう寝よう、そう思いフーの眠る布団に自分も入っていく。ただ告白云々の前に懸念が一つ。 「明日から翔にどう接すればいいんだろう……」 一難去らずにまた一難。一抹の不安を抱えたまま、少女の夜は更けていく。
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