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「探し物は何ですか……見つけにくいものですか……路上の隅も……ゴミ箱の中も……探したけれど見つからないのに…………」
町中駆け巡った。色んな人に尋ねた。けど見つからなかった……
「俺は屑です……」
「そういうこともあるさ、はい、これでも飲んで」
目の前に暖かなコーヒーが置かれる。見上げればマスターが微笑んでいて。
好意に甘えて一口飲む。瞬間、仄かな苦みと何とも言えぬコクがあり、まあうん、上手く言えないけど美味しい……
なんか泣きそうになっていると喫茶店の扉が開き、俺が今現在、最も会いたくない子が来店してきた。
「戸神さん!!ここにいたんですね!!」
「フィッツ君……」
見つけられたのがそんなに嬉しかったのか、すごいニコニコしていて、俺は居た堪らなくなり席を立ちフィッツ君の前に立った。
「戸神さん、あの手紙の事なんですが……」
「え、ああ…フィッツ君……その……」
うまく言葉が出ないでいる俺にフィッツ君が体を漁り、スッと綺麗な手紙を渡してきた。
「へ?え?」
理解できない俺に申し訳なさそうにフィッツ君は言う。
「すみません、実はあの手紙僕の名前書き忘れてまして。それに朝気づきまして書き直してきたんです」
「え、そうなの?」
ってことはつまり
「すみませんが、戸神さんに最初に渡した手紙は無しということで……ほ、本当にすみません!!」
平謝りするフィッツ君。違うんだ、君は悪くない、むしろ助かったんだ。君が忘れてくれたおかげで。唇を噛み締め手を胸の前で組み、神様に感謝。誠にありがとうございます。
あの神様を思い出してる中、未だに頭を下げるフィッツ君の肩に手を置く。
「いいよ、頭を上げて。何も気にしなくていい、謝る必要なんてない。この手紙はちゃんと今日、ミーシャに届けるから。安心してくれ」
俺が言えた口じゃないが、有り得ないほど言えた口じゃないが、フィッツ君は何故か感動した表情で俺を見始めた。
「戸神さん……僕、あなたのことを尊敬します」
止めてくれ、そんなキラキラした顔で俺を見ないでくれ。とてつもない罪悪感に押し潰されてしまうから。
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