5171人が本棚に入れています
本棚に追加
――――――
「ほら、今日はお兄さんからクッキーのプレゼントだぞ」
教会の奥のちびたちの集まる部屋、ドンとテーブルに置かれたバスケットに子供たちが群がっていく。
その中に、クッキーではなくこちらに向かってくる子供が一人。
「兄ちゃんっ」
シアである。嬉しそうに寄ってきたので取りあえず頭を撫でるが、この子の髪のサラサラ具合と言ったら言い様がないね。一パーセントでもいいから欲しいよ。
「ホントに来てくれた」
「約束は守る質なんでね。ほら、お前も食べてこい。一杯あるから」
「うんっ」
元気良く返事をし、シアも子供の群れに入っていった。そしてそれを見守っていた少女が声をかけてくる。
「翔さん、いつも有難うございます」
「いやさ、約束してたからね」
「翔さんが来るようになってみんな、特にシアなんて貴方を本当の兄のように慕っています。甘えられる相手が私しかいませんでしたから、それも関係しているのでしょうけど」
そう言い美味しそうにクッキーを食べる子供たちを見つめるアリシア。一週間も経ってないのにそこまで想われてるのは嬉しい限りだ。
「けど、授業があるのにシアを連れ出すのは感心しません」
シアめ、俺を売ったか。
「それは……うん、大丈夫、もうしないから」
俺がそう言うと何故かアリシアは怒ってた顔から一転、クスリと笑う。
「冗談です、シアは自分が悪いと言ってましたから。あの子がそう言ったんですからそうなんでしょう」
「なぜ俺は怒られたし」
「ちょっと、からかってみました」
楽しそうに笑うアリシアが意外であった。こういう表情を初めて見たからだが、考えてみれば何もおかしくない。16歳の女の子なんだからこれが普通なんだ。
そこで忘れてた物を思いだし、仕舞っておいた袋をアリシアに渡す。
「ああ、そうだ。はいこれ」
「これは……」
アリシアに渡したのは七枚のクッキーが入った小袋。
「マスターから…ああ、喫茶店の方ね」
一応付け足すと、アリシアはクスクスと笑う。
「私たちのマスターはクッキーなんて焼きませんからね」
「違いない」
マスターがクッキーを焼いてる姿を想像し、二人して笑い、ちび達を眺めた。
最初のコメントを投稿しよう!