帰宅のち日常

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アリシアがスフィアを宥めている頃、こちらはこちらで暗かった。 ギルドの隅っこの席で悩む二人。一人は真剣に手紙の話、もう一人は自分が仕掛けたものとはまた違う、面白い流れができていたことを。 (まさか…本当に翔君が告白?…………ないわね) 先日会った時にはそんな雰囲気は一切なかった。有り得ない。そうレイアは思うもどうしたものかと、今度は真剣に悩む。 レイアは、自分を頼りにしてきた少女のことが好きである。姉のような、母親のような観点として。過去に苦しんできたこの少女には幸せになってもらいたいと。 ならばここで間違いを正すのが普通なのだが、どうしてどうして。 ミーシャが嫌がってるようには到底見えないとレイアは感じていた。 「ねぇ、ミーシャ」 「はい…?」 「付き合っちゃえば?」 「っ!?……なんでそうなるんですか」 「だって、ねぇ……」 それ以上は言わない。そこからは自分の言うべきことではないから。 しかしミーシャから出るのは否定の言葉。 「私は…今の生活が好きなんです。翔と付き合うとかそういうのは……」 意識しちゃってるじゃない、そう言いかけるが口を閉じた。心の内がどうあれ、意思を尊重すべきだと。実際、告白は違う人だとレイアは考えていた。ならば断わるスタンスが最適、しかし (勿体ないわね……) レイアの考察通りなら、まあその通りなのだが、それならこれでいい。 だがレイアは考える。この流れでもし翔が、本当に急に思い至って告白を決めた場合としよう。それをミーシャがバッサリと断る。結果、家族仲は何とかなりそうだが今後二人がそういう仲になる確率は限り無くゼロに近い。そう考えた。 (難しい……実に難しい問題ねこれは……) 手に持つジョッキを前後に揺らし一飲み。 全てのパターンを考慮した的確な答えが必要不可欠。安易な推察は禁物。 そうして二人がまた押し黙り、沈黙の時間となろうとした時だった。 「何だ深刻な顔して。どれ、俺も話を聞いてやろう」 リックがいなくなり暇になっていたハンクである。微妙にだが酔っぱらっているせいか暗い空気を察知し、関わる方向を選んでいた。 これは良くないとレイアは追い返そうとするが、それより先に天にも縋る思いのミーシャは事の事態を話し始めてしまう。 「翔が――――――」
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