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「ほぉ、そんなことがあったのか」
「はい……」
沈んだ顔のミーシャにハンクはガシガシと頭を掻く。
「何事も経験と言ってやりたいが……よしっ、分かった」
そう言うハンクに二人は意外な結論の速さに驚きの目を向ける。酒を少し飲みハンクが出した答えは単純明快。
「断れ」
「え!?」
「はっ!?」
ミーシャは戸惑いの驚きだが、レイアは怒りを含んだ驚きであった。
「ちょっとハンクさん、適当な答えなら私も怒るわよ」
目付きを悪くし、怒りを露わにするレイアをどうどうと宥めハンクは言う。
「何も考えないで言ったわけじゃない。こんな状態で付き合ってもお互いの為にならんと思ったんだ」
「だから、そんな簡単な―――」
「まあ待て。お前もお前で深く考えすぎだ。俺はな、戸神とミーシャがその程度で壊れる関係とは思わないんだ」
「そんな曖昧な……」
頭を抱える。やはり追い返すべきだった、レイアは後悔の念にかられるがハンクはお構いなしと続ける。
「ミーシャはどうだ、駄目になると思うか?」
そう問われ、ミーシャは数秒黙り首を横に振った。
「なりません……駄目になるなんて……私は思いません」
ハンクを決意した力強い瞳が捉える。一人の少年を信じて疑わないその瞳を見て、ハンクは真剣な顔を崩し豪快に笑う。
「はっはっはっ!!なら断ればいい。あいつだって断られる未来も考えてるさ。お前たちの倍は生きてる俺が断言する。時間はかかるかもしれんがお前たちは大丈夫だ、信じろ」
まったくといって根拠のない言葉。失敗したらどうするつもりだとレイアは心中で悪態をつく。だがミーシャはその言葉で吹っ切れた面持ちになり、いつもと同じように明るく笑う。
「……なんかスッキリしました。レイアさん、ハンクさん、有難うございました。それじゃ私、仕事があるので帰ります」
「おう、頑張れよ」
「……ミーシャが決めたのなら何も言わないわ。頑張りなさい」
「はいっ」
二人を尻目にミーシャは駆け足でギルドを出た。
遠くの空には刷毛で掃いたような美しい筋の雲。
――――大丈夫、きっと大丈夫。
今の自分、そして明日の自分に対してエールを送り、来た時とは正反対の軽い足取りでミーシャは天心に向かっていった。
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