帰宅のち日常

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「よお、連れてきたぞ」 「ど、どうも……」 本日二人目の告白者、フィッツ・メイト。シアとは対照的におめかししたその姿は、黒のスーツに黄色のネクタイと、その心意気が窺える格好であった。 フィッツはハンクに背を押されぺこりとお辞儀をする。その時ハンクが言う。 「ん?戸神の奴はどうした」 周りを見ながら言うハンクにリックはひょいと穴の方を指さす。 「地味にきたっぽいぜ」 「戸神さん、何かあったんですか?」 微妙な顔をするリックに、気になったフィッツは尋ねる。その問いにリックが答えようとした時だった。ほんの一瞬間、異様な空気がその場に流れた。それと同時にハンクがカッと目を見開く。 「……まさか引っかかるとはな。おいリック、フィッツを任せるぞ」 「……あいよ」 リックは何も聞かずただ片手を上げる。それを見届けハンクは地面に手を置く。すると地面が池に小石を投じたように波打ち、チャポンと音を立てハンクは地面の中にすっと落ちていき姿を消した。 「え、え、え!?」 突然人が消えたことにパニックになるフィッツの肩にリックは手を置くと笑う。 「気にすんな、そろそろミーシャも来るだろうし気持ち整えておけ」 「は、はい……」 気にするなというのも無理な話だったが、目の前にいるのはギルド指折りの実力者。自分が口を出すべきじゃないとフィッツはその言葉に従い川へと歩いて行った。 リックは軽く笑うと街から見て西の方角に目を向ける。 「任せるぞおっさん……」 気配が読めずとも長年の付き合いからリックは読み取っていた。何が起こって、何が現れたのかを。 リックとハンクが真実を濁したのは翔の為であった。此処で話せば翔にも聞かれてしまう、裏方は大人の役目。 「ま、大丈夫だろ。…………ん、こっちも来たか」 森から聴こえてきた足音にリックは、げんなりした翔が体育座りをして待つ穴へと向かった。
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