帰宅のち日常

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―――――― 「――――っ!!」 下を通り過ぎていった覚えのある魔力反応に少女は目を走らせた。自慢の猫耳をぴくぴくと忙しなく動かし、何もすることなくそれを見送った。 ミーシャもハンクたち同様、異様な気配に気づいてはいたが具体的なことがわからず、何より翔との約束が彼女の念頭にあったためどうにも向かえないでいた。 しかし今しがた通った存在がミーシャを安心させた。 「ハンクさん……ごめんなさい。お願いします」 人任せにすることを躊躇いながらもミーシャは先へ進むことを選んだ。何故ハンクがここ周辺に居たのかを考えることなく。 全ては朝方、翔が切なく、悲しそうな顔をしてまで自分に頼んできたから。断りの返事を言っても諦めていないと翔の瞳から感じ取っていた。 それはミーシャの心を揺さぶるのに充分であった。 このまま変わらぬ返事を言った時、本当に関係が壊れないか、翔が耐え切れなくなり何処かへ行ってしまうのではと。 また家族がいなくなってしまう、それがどうしようもなくミーシャを不安にさせた。それを考えただけで震えるほど怖くなっている自分がいた。 目的地に近づくほどにミーシャの不安は募っていく。 「何が正解かなんて…わかんないよ……」 気づけば声を零していた。そこから光は既に見えていた。約束の時刻まであとわずか、後戻りはもうできない。 「わかんないよ……翔……」 告白受ければいいだけ、そんな単純な話ではなかった。彼女が望むのはそれではないのだから。 ただ家族として、取り戻した日常を過ごしたかった、ミーシャにはそれだけだったから。 「わかんないよ……ねぇ、どうしたらいいの…翔……」 目の前に浮かぶ在りもしない幻想に語りかけるミーシャ。彼女はもう何も考えられないでいた。自嘲気味な笑みを浮かべ、ミーシャは明るみへと足を踏み入れた。 「……まぶしい」 額に手を当て前を見るミーシャ。ぼやけるその視線は川の傍に立っている少年を向いていた。 「……え?」 だがミーシャはすぐに気付いた。あれは翔ではないと。翔とは髪の色も背の高さも違う。 想像外の事態にミーシャは震える声で見知らぬ人影に尋ねた。 「翔?…翔…なの……?」
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