帰宅のち日常

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フィッツの言葉を最後にそこは静寂に包まれた。そのタイミングで穴ではリックが立ち上がる。 「うしっ、先に行くぜ翔っち」 何を思ったか穴を飛び出すリックに翔は額を抑えたまま黙っていた。 「よっ」 リックは二人の前に姿を出すと有無を言わさずフィッツを背負った。 「リ、リックさん!?」 突如に現れたリックに驚くミーシャに早口で言う。 「ハンクにこいつの事を頼まれててな。悪いが連れてくぜ」 それだけ言うとリックは二人を残してその場から走り去っていった。 ―――――― 「……ありがとう……ございます」 森の帰り道、一分ほど走った辺りでフィッツが絞り出すように感謝の意を述べた。 「ん、選択ミスじゃなかったか。ま、気にすんな」 速度を落としリックは分かったように言う。 「俺も昔、あんなことがあったからな。女に慰めてもらいたくはない、けどどう立ち去ればいいか分からない。難しいよな」 「……はい」 消え入るような声を聞きリックは前を見据えわざとらしく言う。 「さて、街に帰るまで俺は少し速く走るから風の音が煩くなりそうだ。多分何も、声とかも聞こえなくなるな」 「え……?」 「それに寄り道すっから時間もかかりそうだ。……ま、全部吐き出しとけ。我慢して溜めこむよりよっぽどいいからよ」 「っ……はい…………」 フィッツの頷きを合図にリックはずんずんと加速していく。野道を駆け抜ける風の音が、全ての声をかき消していく。 ―――――― 「何でかねぇ……」 額から血を垂らしながら残された穴の中で呟いた。 聞き穴はとても高性能だと分かった、少し離れていても声が聞こえてしまうんだから。 フィッツ君が何で俺を選んだのか、分からない。あの子からしたら俺は邪魔者でしかないのに。何で俺に笑顔を向けていられたのか 「わっかんねぇ……」 別に俺はミーシャと付き合ってもいない。家族という名の居候なだけ。 俺はあの子を全力で手伝うと決めたのに何だこのオチは……釈然としない。 『……翔、いるんでしょ』 ミーシャの声に俺も立ち上がった。ばれてるなら隠れてる意味もない。血を拭い穴から出て茂みを抜けて俺はミーシャの前に立った。
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