日常のち誕生日

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南三局目に突入し、ジャラジャラと牌を混ぜるなかレイアさんが思い出したように言う。 「そう言えばそろそろね。ミーシャの誕生日は」 「……ホワッツ?」 「あら、知らなかったの?うーん……あと三日ね確か」 まったく知らなかった、ミーシャは夏の生まれだったのか。外は今三十度を超える真夏日で、照り返しにより何人も熱中症で床に伏している人が出ている。 だがギルド内はというと 「おいフィア、寒すぎるぜこれは」 「…………」 「聞いちゃいねぇ」 二の腕を摩り白い息を吐くリックさん。現在の室温はアバウト十度ほど、肌寒いというより最早寒い。 マスターが何を思い立ったか先日、オリジナル魔法を、何でも触れただけで全てを凍らせる魔法を開発するとのことだったが。 暑さに苦しむギルドメンバーたっての要望で冷房代わりとして地下ではなく部屋の中央で、腕を八の字に広げ構えたままかれこれ三時間以上。 ドライアイスは昇華して白い煙を出すが、今のマスターはそれと同じ。冷気を発し続け極限まで集中力を高め、マスターの周囲だけ氷河期が訪れている。 本当に何があったんだろうか、これでは外気との温度差で死人が出るぞ。 「私も頑張らなきゃね……あら、ロン」 何を頑張るか知りませんが麻雀はもう頑張らないでほしい。 「ああ、畜生め」 苛々した様にハンクさんが点棒を場に撒いた。跳んだか。 「じゃあハンクさん、特性杏仁豆腐三個お願いね」 「……言われなくても判ってる。次は負けないからな」 立ち上がると恨めしそうにレイアさんを睨むと、ハンクさんは早足にギルドを出て行った。 初めての賭け勝負はやっぱりというか、レイアさんの圧勝だった。 「レイア、お前強すぎるぜ」 「うんうん」 「…何言ってるの、二人とも持ち点最初と殆ど変わらないじゃない」 いや、こっちもハンクさんからしか取ってないし……ああ、ハンクさんだけ跳ぶ訳だ。 「おっさんの運が無かっただけか……さて」 リックさんが席を立つ。 「凍死する前に俺は帰らせてもらうぜ」 「あら、帰るの?」 「今にとばっちりが来そうだからな。家で読書でもするさ。じゃあな二人とも」 自らの危機を察知したのかリックさんもいなくなった。ふむ、ちょうど良いし、女性の意見を訊いてみようか。 「プレゼントって、どういうのが喜んでもらえるんでしょう?」
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