日常のち誕生日

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エクシリア、それがアリシアの育ての親である女性の名らしい。 兎も角、よく笑う酔狂な人でシスターになったのも単なる気紛れだった。それがどうして、数十年生涯を全うするまでひょっこりと孤児を拾ってきては我が子のように育て続けたのだ。 その真意をアリシアが知ることはなく、シスターエクシリアは最期まで笑いながら天国へと旅立ったと。ふと訊いた俺に自分に語りかけるように丁寧に教えてくれた。 そんなシスターエクシリアが塞ぎ込んでいたアリシアを強引に転移させた先が極彩鳥の群れの住む山だった。数十の極彩鳥が飛び交うそこは場所は不明、全く知らない土地だった。 だがそんなことを気にも留めずアリシアは見入っていた。幾重にも自由に飛ぶ極彩鳥の幻想的な光景を。 そして真上にあった太陽が地平線へと沈みかけ帰るその時まで、アリシアは無言で極彩鳥を眺め続けた。 後にも先にもアリシアが極彩鳥を見たのはそれが最後だったという。 息をするのを忘れてたように是でもかと空気を取り込み、落ち着きを取り戻したアリシアが言う。 「少し待ってもらえますか?翔さんに見せたいものがあるんです」 立ち上がり二階へと上がっていったアリシア。話をしてた時のアリシアの表情は夢心地と云ったところだった。それほど極彩鳥が彼女に与えた影響は凄かったんだろう。 そして数分の後、彼女は写真を入れる様な木縁のガラスの盾を持ってきた。 「これは……」 中に飾られていたのは正しく虹色の羽。だが俺が前に見たものとは一線を画す煌めきを放っていた。 「お母さんがあの場を立ち去る前に私にくれたものです」 一羽の極彩鳥に近づき、シスターエクシリアが嘴で抜かれたそれを受け取ると彼女の手に置いて。 「私の宝物なんです。これを見てると辛いことがあっても頑張っていける、そんな気分になるんです」 大事そうに胸の前で包み込むように盾を抱くアリシア。人生の宝物みたいなものか、それとも形見のようなものなのか。 俺には分からないけど、取りあえずおいちゃんはしんみりとしてしまいました。
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