5171人が本棚に入れています
本棚に追加
「良い人だったんだな」
「はい、とても優しい人でした……。翔さんもミーシャさんのために頑張ってください」
懐古的にそう言ったあと、胸の前でグッと笑顔で握り拳を作るアリシアに俺は頷く。
「ああ、お目当ての品の実物も見せてもらったし、あとは探して頼み込むだけだ」
そして席を立つ。目指す物は分かった、あとは俺の運と努力次第だな。
「ありがとう、助かったよ」
そう言うとアリシアは微笑んで。
「いえ、私も幻獣やお母さんの話ができて楽しかったです。それでですね、えっと、また……お母さんの話をしてもいいですか?」
アリシアはそう言うと照れ臭そうに俯いてしまった。母親の話を人にするのは気恥ずかしいものかもしれないけど、それぐらい遠慮せんでもいいのに。
「お安い御用でさ」
俺の答えにアリシアはパッと顔を上げ、軽く頭を下げ言う。
「あ、ありがとうございます」
「いいって、こっちもお世話になってることだし。あと、シアいるかな?」
会っていこうかと思い訊いたが、シアの名にアリシアの表情が少し曇る。
「……何かあったの?」
するとアリシアは心配そうな表情で二階を眺め言う。
「あの子も……流行りの熱中症で寝込んでいます」
「あらら」
まさか身近な人がやられていたとは……。そういえば先日も外を走り回ってたなあいつ。
「大丈夫なのか?」
「今は寝かせて安静にさせてますので、明日にはよくなると思います」
「そっか。起こすわけにもいかないし帰るとするか。今日は助かったよ。じゃ、また」
「はい、また今度」
手を振るアリシアに同じように返し教会を出た。空を仰げば、日はまだ高い。
――――――
ここ最近は大通りに人がいなくなっている。皆が一様に日を避けるために店の下など、影へ影へ隠れるからなのだけど。
そんな焼けるような暑さを感じる道の中央を歩く俺は馬鹿に思われるかもしれないが、俺にもどうしようもないんだ。
「それでですね、戸神さん」
偶然出会ったフィッツ君が天邪鬼のように影を避けて歩くんだから。嗚呼……暑いなぁ……髪の潤いが消え去ってく感覚がする……
最初のコメントを投稿しよう!