5171人が本棚に入れています
本棚に追加
――――――
あっちをふらふら、こっちをふらふら、翔が爆睡してる中、フレリアは山を彷徨っていた。
「翔が頑張らなきゃいけないのに……」
道なき道を飛び続け、しかし胸中は極彩鳥より翔の不甲斐なさへの呆れが占めていた。
人間と妖精では温度に対する強さは違う。妖精はその小さな身に宿す高純度の魔力が外気を緩和することが可能である。
しかし人にはそれはできず、翔も例外ではなく暑さに倒れるのも仕方がなかった。
それについてはフレリアも理解しているが、どうにもモヤモヤした感情が渦巻いて止まない。
「家族の為って言ってたくせに……」
今まで家出をすれば決まった拠点もなく、宿無しの生活をしていたフレリアだったが、今は早二か月もの時間を天心という我が家のようになりつつある家で暮らしている。
それがどれほど小さな妖精に安らぎを与えているか。
だからこそ今回は恩返しのような、感謝の印として翔と頑張ろうと意気込んでいたがこの状況。
「翔のばーか……」
ポロリと声が零れる。やるせない気持ちにフレリアは近くの丸い大きな石に降り立ち座った。
木々の間から落ちてくる一筋の木漏れ日を眺める。年に一度の誕生日、記念すべき日。そう、それは人間だろうと妖精だろうと同じで。
そしてフレリアはふと昔を思い出した。まだ小さい頃、家族に祝福され、その中心で嬉しそうに笑っている自分の姿を。
「……私、あの頃は笑えてたんだ」
何時からか、父とのすれ違いが増えて、伝わらない気持ちに口論も重ね、耐え切れず家を飛び出すようになっていた。
それこそ翔に出会うまで、心から笑ったことなんてなかった。
だが今はどうだろう、楽しく話せる友達もできた。新しい家族さえできた。自分が何かをしてあげたいと思える人ができた。
「そうだよね、翔の分も…私が頑張らなきゃ」
翔が動けないなら、その分私が頑張ればいい。休んでる場合じゃない。すっと立ち上がりフレリアはまた飛び始める。
その顔にもう迷いはない。ただ一つ、自分の身を何時も案じていた本当の家族の事を思い出しつつ
「お母さん……どうしてるかな……」
最初のコメントを投稿しよう!