日常のち誕生日

21/50
前へ
/605ページ
次へ
頬を朱に染め自分の空間を展開するクレシャにフレリアもなぜか自己紹介をする。 「えっと……フレリア…です」 しかし、慣れぬタイプに敬語で喋っていた。そのオドオドした姿にクレシャは目を輝かせる。 「か…可愛いです……有り得ないです」 意識せずに伸びかけた右腕を左手で押さえつけ、自制を保つとクレシャは両手で優しく檻を机の上に持っていく。 「もっとお話ししましょう。何でも聞いてください、幾らでも答えちゃいますから」 意気揚々と胸を叩き語りかけるクレシャにフレリアは不安を帯びた声で訊く。 「私…これからどうなるの?」 「っ……それは…………」 思わぬ問いに言葉に詰まる。目の前で座る妖精は盗賊に捕まる意味を理解している。 本当の事を言うべきか、それとも嘘をつくべきか。迷った末にクレシャは片方を選択した。 「その、エインさんに依りますが……貴族に売り飛ば―――」 だがちらりと見たフレリアの悲しみの表情を見た瞬間、クレシャは言葉をグニャリと捻じ曲げる。 「―――す訳ないですよ!!フレリアちゃんは今回の対象ではないですから!!お家に帰れますよ!!」 全くと言って確証のない発言。その後ろめたさに表情が引きつってしまう。それに気づいてかフレリ アは彼女を見上げ訊き返す。 「……嘘じゃない?」 拭いきれない不安。その不安を振り払うようにクレシャはぶんぶんと首を振り言う。 「嘘なんてつきませんよ!!私がエインさんに頼みますから。エインさんはあの二人と違って優しい人です。きっと分かってくれます。だから……そんな悲しい顔は無しです。私を信じてください」 まっすぐにフレリアの瞳を見つめ語りかける。その心からの言葉にフレリアが幾分か表情を崩した時だった。 ギギィと扉の鈍い音にクレシャが振り向けばそこには腕を組んだエインが立っていた。 「あの、エインさん、そのですね……」 これはちょうどいいタイミングと願いを聞いてもらおうとするが、エインがそれを手で制し外に指を向け言う。 「聞いてる暇があるか、いや無い。今しがた召喚使がここを嗅ぎ付けた」
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加