日常のち誕生日

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女性が怒鳴られてるのに、目の前のリーダー格っぽい男性は俺を品定めするようにずっと見ている。 いや違う、見てはいない。こっちを向いてるだけだ。目を閉じたまま……一体なんだこの人は…… 不気味に思っていると男性が静かに口を開いた。その瞬間、怒鳴っていた二人はすぐに口を閉じる。 「ただの少年か、いやそうではない。少年、名は何という?」 「……戸神」 フルネームは何となく避け名字だけ名乗ると男性は頷く。 「そうか、俺はエインという。ところで、少年に一つ提案がある」 そう言い、横を向き未だに頭を下げている女性の肩に手を置いた。 「お前の頼みを断るか、いや断らない。その妖精は逃がしてやろう」 その言葉に女性はパッと顔を上げる。 「ほ、ほんとですか!?」 「ああ、嘘はつかない」 本気で返してくれるのかと俺が疑問に思うなか、やはりと言うか双子が叫ぶ。 「エインさん!!小娘に惑わされちゃいけません!!こいつは俺たちの仕事を分かっちゃいないんです!!」 「そうです!!妖精を逃がすなんて血迷ったこと言わんでください!!」 女性がキッと双子を睨む。それに若干気圧されながらも双子も引くつもりはないらしい。 それに気づいてか男性は言葉を続ける。 「無条件で返すか、いやそれはない。少年が俺と戦い、勝てばこの妖精を逃がそう」 え、なにそれ、何で戦う流れになってるの? 「それならいいだろ?」 そう訊き返すと双子が意地の悪い笑みを浮かべる。 「へっへ、そういうことなら何も言いやせん」 「ええ、しかしエインさんも人が悪い。返さんと言ってるようなもんですぜ」 ニヤニヤと俺を見てくる双子。無性に腹が立つ顔をしていやがる。 それとは逆に女性は驚いたように言う。 「エ、エインさん、それは……」 同じことを言いたいんだろう。俺負け確定ってことで話が進んでる。俺としては戦うしかなくなったらあの檻奪って逃走したいんだが。 俺が逃走手段を考えていると、男性は首を横に振り三人の言葉を否定した。 「俺の圧勝になるか、いやそれはない。なあ、少年?」 「…………っ」 寒気がするほど澄んだ声色が頭を駆け抜けた。見てないのに見透かしたような発言。 ……やっぱり不気味だぞこの人。
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