日常のち誕生日

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「さっすがだね翔!!」 「おうよ、すぐ出してやるからな」 グーサインを向けるフーに同じように返すが、さて、格好つけたがどうしたもんか。 男性……もうエインさんでいいか。エインさんは双子がやられたというのに顔色一つ変えず、無言で近づいてくと二人を軽々と肩に乗せた。そして小屋まで運び壁に持たせ掛けこっちを向く。 「少年のお蔭で灸を据えることができた。これで二人も考えを改めるだろう。感謝する」 「感謝って……なら家の子を返してくださいな」 「ふっ、それはできない相談だ」 「ああもう……仕方ないっ!!」 一か八か脚に魔力を巡らせ、瞬時に地を蹴り女性へと手を伸ばす。 「えっ!?」 完全に反応できてない、完璧なタイミングの奇襲。檻まであと数十センチ、取り返したと俺は確信していた。だが 「その行動を許すか、いや許さない。少年、それは見過ごせないな」 檻まであと寸の所で俺の手は止まった。片手を胸に、片手を手首に、それだけで俺の勢いが完全に消えていた。 すぐ前でフーと女性が仲良く呆けている。 気づけば息を呑んでいた。そのまま動かず声だけ出す。 「…何で分かったんですか?」 「なに、少年の魔力がざわついたからな」 え、ま、魔力ってざわつくのか?けど 「何も見えないんじゃ……」 「分かっていたか。確かに俺は盲目だ。その代わりに俺は人の、生物の流れが見えるのだよ」 「な、流れ?」 「そう、流れだ。生きるものはすべて絶え間なく動いている。その流動が俺には見える」 ほぉ、つまり……どういうことだ? 「理解しきれないか。なに、戦えばいやでも理解できる」 「こっちとしては戦う気はないんですがね」 「少年は戦わぬか、いや戦うしかない。そうだろ?」 何もかも見抜かれてる。けど、しかし…… 「まだ躊躇うか。ならもう一つ賞品を付けよう。この小屋には少年が泣いて喜ぶような最高の品がある。俺に勝てばそれも与えよう」 「……ホントですか?」 「嘘はつかない」 どうする?賊の言葉、信用性があるとは言えない。けど、それに関係なくやらねばフーは取り戻せない。 「……分かりました、戦いますよ」 「そうか」 手が退けられ戻る自由。代わりに前には残念な奴を見る目をする二人。 「翔……」 「ないです……」 違う、違うんだ。別に賞品に心動かされたわけじゃないんだって。
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