日常のち誕生日

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―――――― エインには全てが見えていた。翔の一挙一動、それを他ならぬ翔の魔力が教えていた。 全ての流れが動きを教える、盲目のエインが幼い頃に生じた能力。それは翔との対面時にも発揮されていた。 そこでエインが視たのは有り余る膨大な魔力。自分をバケツとするなら、プール一杯並の差はあるだろう魔力量。マスタークラス、いやそれ以上。 問題もなく終わりかけていた退屈な仕事に舞い込んだイレギュラー。 だからこれしきで終わる訳がない、いや、あってはならなかった。 「その程度か、いやそうではない。本気を見せてくれ少年」 挑発ではなく願望。仕事で満たされなかった欲を埋めるため、男は望み、少年は応える。 「分かりました……こっからが本番です!!」 翔が胸に手を置き、瞳を閉じる。そして次の瞬間、辺りを白い光が包み、それは現れた。 「それが……少年の魔武器なのか?」 エインの問いに翔は剣を軽く一振りし答える。 「一応ですがね。音速の剣『シルファリオン』、こいつの名前です」 「ほぉ……」 エインから見てそれは柄が細く、枝が蔦のように刀身の四分の一ほどまで巻きついた、特殊であるがほかに特筆すべきもののない剣だった。 刃渡り1.2メーター前後、幅20センチ前後、目算の値だが音速を名乗るには些か大きかった。 だがそれは常人の持つ印象でしかない。 エインには見えていた。剣に流れる未知の力、その躍動が。 「行きますよ」 「ああ、来い」 「では―――」 翔はゆっくりと構え、その場から音もなくその姿を消した。目で追えば追いつけぬ速さ。 だがエインの瞳に映ったのは残り香の如く残る魔力の軌跡。それを頼りに咄嗟にエインは魔武器を出現させ、右からの横っ腹に迫る一撃を防いだ。 形状の割に軽い一撃、だが既に剣は受け止めたとこに在らず。左薙、右斬上、逆袈裟、左斬上、袈裟、右薙。目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃。 「ふっ――――――」 それをエインは長年培ってきた能力、圧倒的なセンスで紙一重で七の乱撃全てを防ぐ。 その流れる様な動きはまさに芸術。 防ぎ切られると思ってなかったのか翔は大きく飛び退く。 「……異常ですね」 引きつった表情で翔の放った言葉にエインは思わず笑う。 「それは少年も同じだろう。さあ、続けようか」 想像以上の実力に、抑えきれぬ昂揚感からエインは自らのスタイルを崩し翔に向かっていった。
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