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「―――ふぅー……」
起き上がらないことを確認し、阿呆みたいに重い剣を地面に突き立てる。
気絶したのかエインさんはピクリともしない。振り切った瞬間、嫌な音が微かに聞こえたが……まあ死ぬわけはないし、仕方ないさ。
息を整え、半径数メートルのクレーター内を、剣を引きずり歩き、やっぱりといった表情のクレシャさんの前に立つ。
「家の子、返してもらえますか」
「ええ、約束でしたからね。少し待ってください」
そう快く頷き、クレシャさんはポッケから鍵を取りだし、檻を開ける。
「やっと出れたー!!」
慣れぬ狭さにストレスが溜まっていたのか、フーは勢いよく飛び出し空を縦横無尽に飛び回り始めた。
うん、十分に元気そうだな。安心した。
「しかし、本当にエインさんに勝ってしまうとは。君は何者ですか?」
いつの間にか隣に立ち、クレシャさんはそう尋ねてきた。はて、どう言ったものか。
「……一ギルド員です」
結論、隠す。
「言えませんか。まあいいですけど」
聞いといて、クレシャさんは興味無さ気にそう言い、エインさんの姿を見ながら美人台無しのニヘラとした笑みを浮かべる。
「君のお蔭でエインさんが寝てる間に膝枕や添い寝、そしてあんなことやこんなことも……いつもじゃできないことが実行できますから。むふふ、夢が膨らみますね」
「いや、早く介抱した方が……」
俺が言えた立場じゃないが軽傷ではないはず。しかし向かうことはなく。
「大丈夫ですよ。エインさんがこれしきの事でどうにかなる訳ないですから。それに君も、最後の最後で力を弱めてましたし」
「……ほんの少しだったんですが、よく分かりましたね」
結局俺は人を攻撃することを躊躇した。大怪我、悪ければ死もあり得るなかで。甘ちゃんと言われて仕方ない。
俺の白状に、クレシャさんはこの上なくしたり顔になり
「ふふん、エルフの視力と動体視力を甘く見てもらっちゃ困ります。里では覗き見クレちゃんと崇められてたんですから」
「褒め言葉には聞こえないですけど」
だが俺の突っ込みは華麗にスルーされ、クレシャさんは夜空を躍り飛ぶフーに手を振り始めた。
しかし、いやはや、エルフか……ありだな。
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