日常のち誕生日

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泣いて喜ぶ物。それはどの様な物を指すのか。宝くじだったり、長年欲しかった限定ものだったり、ゲームのハードとソフトだったり、人によって色々あると思う。 「はい、これが賞品です」 しかしだ、鳥類研究者でない以上、断じて阿呆な顔した鳥ではないことは確かだ。 小屋から現れた、大きめの檻の中で死んだように眠る極彩鳥の雛。色んな意味で言葉が出ない。 「嬉しさのあまり声も出ませんか」 うんうんとクレシャさんが頷き勘違いな発言をしてる。出逢えたことに、俺は何の感慨もないというのに。 「……こいつ、どうしたんですか?」 「掻っ攫いました。けど、私はあまり気の進まない仕事だったので。できれば親元に帰してあげてください」 「……なぜ俺が?」 「私じゃ確実に親鳥に攻撃されますので。ギルド員でしたよね?お願いします」 ペロッと下を出し、年の見えぬ幼い表情で笑う。 もはや責任転嫁としか思えない。調子が良すぎはしないだろうか。 「俺が行っても攻撃されますよ」 その親に用があるのに、息子攫った疑いのある奴に羽をくれるわけがない。 ため息交じりにそう言うと、しかしクレシャさんは首を振り 「大丈夫です。極彩鳥は聡明で律儀ですから。恩人に仇を返すようなことはしません」 「でも、百パーセントじゃない」 「それはそうですが……」 渋る俺の背に、つんつんと突かれる感触に振り向けば、飛び終えたフーの姿。 「ねぇ、翔、帰してあげようよ?親と離れ離れは……悲しいよ」 見上げられ、自分の事のように悲しげな顔をするフー。 「……なぁ、それは」 それはお前の事じゃないかと言いかけて、だけど言葉を呑み込んだ。 フー、それが分かってて帰らないのは極度の意地っ張りだぞ。けど 「…………ふぅ」 家族の頼みじゃ、断るわけにはいかないさ。 「フーに免じて、こいつを届けます」 気持ちが見えたのはいいが、家出の事は、また今度話すとしよう。 改めてクレシャさんに向き直りそう言い、置かれた檻を肩に担ぐ。 「今回の仕事は余り気が進まなかったので、君の働きで万事解決です。エインさんには悪いですけどね」 クレシャさんはそう言うも、その表情は悪いとこれっぽっちも思ってない笑顔で。 何というか、したたかなエルフさんだ。
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