5171人が本棚に入れています
本棚に追加
泣いて喜ぶ物。それはどの様な物を指すのか。宝くじだったり、長年欲しかった限定ものだったり、ゲームのハードとソフトだったり、人によって色々あると思う。
「はい、これが賞品です」
しかしだ、鳥類研究者でない以上、断じて阿呆な顔した鳥ではないことは確かだ。
小屋から現れた、大きめの檻の中で死んだように眠る極彩鳥の雛。色んな意味で言葉が出ない。
「嬉しさのあまり声も出ませんか」
うんうんとクレシャさんが頷き勘違いな発言をしてる。出逢えたことに、俺は何の感慨もないというのに。
「……こいつ、どうしたんですか?」
「掻っ攫いました。けど、私はあまり気の進まない仕事だったので。できれば親元に帰してあげてください」
「……なぜ俺が?」
「私じゃ確実に親鳥に攻撃されますので。ギルド員でしたよね?お願いします」
ペロッと下を出し、年の見えぬ幼い表情で笑う。
もはや責任転嫁としか思えない。調子が良すぎはしないだろうか。
「俺が行っても攻撃されますよ」
その親に用があるのに、息子攫った疑いのある奴に羽をくれるわけがない。
ため息交じりにそう言うと、しかしクレシャさんは首を振り
「大丈夫です。極彩鳥は聡明で律儀ですから。恩人に仇を返すようなことはしません」
「でも、百パーセントじゃない」
「それはそうですが……」
渋る俺の背に、つんつんと突かれる感触に振り向けば、飛び終えたフーの姿。
「ねぇ、翔、帰してあげようよ?親と離れ離れは……悲しいよ」
見上げられ、自分の事のように悲しげな顔をするフー。
「……なぁ、それは」
それはお前の事じゃないかと言いかけて、だけど言葉を呑み込んだ。
フー、それが分かってて帰らないのは極度の意地っ張りだぞ。けど
「…………ふぅ」
家族の頼みじゃ、断るわけにはいかないさ。
「フーに免じて、こいつを届けます」
気持ちが見えたのはいいが、家出の事は、また今度話すとしよう。
改めてクレシャさんに向き直りそう言い、置かれた檻を肩に担ぐ。
「今回の仕事は余り気が進まなかったので、君の働きで万事解決です。エインさんには悪いですけどね」
クレシャさんはそう言うも、その表情は悪いとこれっぽっちも思ってない笑顔で。
何というか、したたかなエルフさんだ。
最初のコメントを投稿しよう!