日常のち誕生日

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「じゃあまたね」 「はい、またいつか会いましょう。君も、またいつか」 その言葉に俺は曖昧な返事を返す。盗賊にまた会いたいかと言われ、快くイエスとは言えない。フーは別のようだが。 「エインさんに、あと一応双子にもお大事にと伝えてください」 少しの申し訳なさに言った言葉だった。けどそれはクレシャさんの眉を曇らせる。 「……君は、良く言えば優しく……悪く言えば反吐が出るほど甘いですね」 「は?」 「……いえ、何でもないです。忘れてください。エインさんには私からちゃんと伝えておきます」 取り繕ったような社交的な笑み。そしてそれは瞬時にさっきのようなだらしない笑みに変わる。 「フフ……それでは、エインさんが起きる前にお楽しみタイムに入らせてもらいます」 そう告げた次には、気絶中のエインさんを御姫様抱っこし、風のように素早く小屋に入っていった。 本当に、掴みにくい人だ。エインさん、ご冥福をお祈りします。 「……さて、ふんっ」 バチンと鞭で叩いたような音が響く。 「痛いっ!?……な、何で叩くの!?」 フーは数秒仰け反った後、涙目で俺を睨んできた。強くやりすぎたか?しかし今回はフーが悪い。 「お仕置きのデコピンだ。本当に心配したぞ」 「……ごめんなさい」 反省はしてるようで、フーは目を伏せ謝る。いや、そんな強く怒ったつもりはないんだが…… 「まあ、なんだ……無事で良かった」 気恥ずかしさに耐え、フーの頭に人差し指を乗せ撫でる。本当に怪我も何もなくてよかった。 「翔……」 ええい、見つめるな、恥かしいだろ!! 「探索再開だ、行くぞ!!」 「うん!!」 フーを取り戻した。それで十分だ。 置いてきたリュックを取りに来た道を帰るなか空を見上げると、いつの間にか空が明るみ始めていた。 「三日目……」 リミットは今日の夜まで。急がねばならぬのに、剣が邪魔をする。変化も回数に含まれていたらしく、消せば強制睡眠を頭が理解していた。 つまり超重量のこれを俺は出し続けてねばならない。 そしてあと一つの邪魔者。 「グアァ」 「ええい、暴れるなこの恩知らず!!」 俺の頭上に陣取り、突いたりなんだり暴れる極彩鳥の雛。親とは大違いだな、おい。
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