日常のち誕生日

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帰る最中には空は明るんでいき、バツ印が刻まれた木々を見つける頃には山は朝を迎えていた。 「……ふぅ、荷物良し。行くか」 「グァァ」 「ああ、分かった分かった。ほれ……よっと、お待ちかねの肉だ」 急かす声にリュックから乾肉を取りだし千切ると、頭上の雛の目の前に差し出す。 「ピェェェ」 「喜ぶ声面白いなお前」 現れた肉に歓喜の声を上げ、雛は大きな口を開けると一口で平らげた。 「満足か?」 「グア、グア」 「まだ寄越せと。……ほら、今はこれで我慢しろ。あとでもう少し食えるだろうから」 「ピェェェェェ」 「嬉しいのは分かるが、あまり声を出すな。お前の背中で寝ているフーが起きちゃうだろ」 何だかんだ言って、まだ子供。非日常を体験し、疲れからか徹夜に耐えらなかったのだろう。気づいたら雛の背中で寝入っていた。 「……グア」 「物分かりが良いな。ほれ、もう一枚」 「ピェ」 暑いし、頭も痛いし、剣は重いし、極度に眠いが、でも、あと少しだ。 「よし、行くぞ」 「グァ」 待っててくれミーシャ、もうすぐ帰るからな。 ―――――― 翔と極彩鳥の雛はひたすら北に向かって歩き続けた。昨日より肌寒い風が木々の間を吹き抜け、快適とまでは言わないが歩きやすく、しかし疲れ切った翔には登山は酷なものだった。 それでも翔は止まることなく歩き続ける。全ては家族の、ミーシャのため。 地面に剣の跡を残しつつ、日が真上を過ぎ傾き始める時刻となり、数日の登山はやっと終わりを告げる。 「グァ、グァァ」 「暴れんなこら、分かってるって。見えてんだからな」 大きな巣に、開けた空間。そこに佇むは巨大な鳥。艶やかな虹色の羽をもつ伝説の鳥、極彩鳥がゆっくりと翔たちの方を向いた。 「……これで顔が阿呆でなければなぁ」 差し込む光に照された神々しさと残念極まりない阿呆な顔のミスマッチに翔は堪らず苦笑しつつも、頭に乗った雛を胸の前に持っていく。 「お届けものです」 数か月の月日を経て、翔は極彩鳥と対面を果たすこととなった。
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