日常のち誕生日

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「…………」 「…………」 お互いに見つめあい暫しの硬直。 極彩鳥は平然としているが、翔からすれば我が子を奪おうとした犯人に間違えられる恐れから冷や汗だらだらなのだが。 「……ほらっ、お前からも言ってくれ。俺が犯人じゃないと」 ゆさゆさと揺らされ、頼まれた雛は億劫そうに鳴き声をあげる。 「……グア、グァァァ、グッグッ」 その鳴き声が何を意味するのか、翔には分からない。 だが親はそれに反応しゆったりとした動作で近付いてくると、雛の背で寝るフレリアを器用に嘴に乗せ、近くの切り株の上に寝かせた。 そして雛の首根っこを、親猫が仔猫を運ぶときのようにくわえて、踵を返し巣へと運ぶとまた翔の出前数メートルまで戻ってきた。 「……あー、理解してもらったってことでオッケー?」 翔が見上げながらそう尋ねると、極彩鳥は左の翼を広げて、それを翔の右半身に触れさせる。 『はい、この度は息子がお世話になりました』 翔の脳内に響き渡る重みのある、それでいて透き通った甘美な女性の声。 いやまて、いやいや、これは何だと、翔の頭がフリーズする。 今この場に居るのは翔と極彩鳥のみ。ではこの声は誰のものか。接触、伝説級、テレパシー、材料から察しはつく、だが信じれない。 喋ることに驚いてるわけではない。この世界は野良猫だって口をきく。だから喋ることは良しとしてもだ、声が綺麗すぎやしないかと。 もっとこう、見た目からして間抜けた声ではないのかと。 「えっと……お前の声で?」 『はい、そうです』 即答。 『睡眠時に息子が拐われていて、しかし起きて確かめてみれば息子の近くに貴方の魔力を感じましたから』 「俺に任せたと?」 『はい』 それは親としてどうなのかと、翔はつい批判を口にする 「息子が奪われて、それを他人に放り投げるのは如何なものかと」 しかし極彩鳥は堪えた様子もなく戯れる我が子逹を眺め、目を緩ませ言う。 『その通りです。けど、結果的に大丈夫でしたから』 「はぁ……」 単に楽観的なのか、それともその賢さがその選択を最善と判断したのか、今の翔には考えるのさえ至極辛かった。 考えることを一旦おき、翔は本題に移る。 「まあいい。それより、頼みたいことがあるんだ」 『頼みとは?』 三日の末、この為に探し続けたのだと、小さく息を吸うと翔は極彩鳥に頭を下げる。 「お前の、極彩鳥の羽を俺に譲ってほしい」
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