日常のち誕生日

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翔の言葉に極彩鳥はピクリと震えた。これは駄目なのかと翔が息を呑む中、極彩鳥は口を開ける。 『いいですよ』 「……軽いっ!!」 『与えられた恩にはそれ相応の恩で返すのが常識。しかしそれを私の羽だけでいいとは、欲がないのですね』 友好的に感じる笑いに翔は黙る。アリシアの話からはとても珍しく、かつ貴重な物の筈だが、そうではないのかと翔は尋ねる。 「友人から珍しいと聞いて来たんだが、そうでもないと?」 『人からすれば珍しいのかもしれません。私達にはその感覚がありませんが。ですが私たち種族が羽を与える事には意味があります』 「それは?」 『友好の印、とでも言いましょうか。友と認めた相手に、私たちは自らの羽を贈ります』 へぇと、感心しつつ、翔は過去の記憶を漁り返す。 「羽をくれるということは友人として認められたと?」 『ええ、そう取ってもらって構いません』 「その友人となる相手に昔、食べ掛けられたんだが」 数か月前、連れ去られ、餌にされる前に全力で逃げたあの日。事無きを得たが、本当に自分を食べようとしてたのか。既に気にしてはいないが、知る必要はあった。 その事について、極彩鳥は思い出したのか、笑いながら言う。 『あれは、貴方は魔力が高く、子供たちの遊び相手になってもらおうかと。妖精を連れていたものですから、危険はないと判断しまして』 すらすらと出てきた言葉に嘘は感じれなかった。しかし 「俺の危険も考えてほしいと思ったり」 『すみません、あの時は、色々とありまして』 申し訳ないとは思っているのだろうが、くすくすと面白そうに言われて思い返す。誰かに似てないかと。 誰だったかと翔が考えるなか、極彩鳥は声色を変えて 『それでは貴方を友と認め、私の羽を贈ります』 周りの空気が厳かなものに変わり、極彩鳥は右の翼を広げ、胸の右へと嘴を持っていくと すっと、輝く羽を抜いた。 渡された羽を眺め、素直に綺麗だと思った。 魅せられるとはこういう事かと、翔は感嘆の息をつく。日に照らせば、羽はその姿を変え、様々な色を翔に見せた。 しかしその枚数は 「どうして二枚も?」 『いえ、もう一枚。話から、貴方は他の人間に贈るのでしょう。その二枚はそのため。貴方には別に』 そして胸の中心辺りからもう一度羽を抜き 『心からの感謝を込めて、贈ります』 それは、白の、真っ白の羽だった。
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