日常のち誕生日

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巡り会う、その言葉に翔は違和感を覚える。 「何処かに行くのか?」 『はい、盗賊に知られたということは、此処も潮時のようです。私たちは他大陸に渡ります』 人に知られれば自ずと情報は広まってしまう。翔も情報を聞いた身、その通りだと頷く。 『ここは良い土地でした。人々が私たちを忘れた頃にでも、また訪れるかもしれません』 惜しむように言う極彩鳥に、翔は思い出したようにリュックの中身を引っ張り出しながら 「そっか……そうだ、じゃあこれを旅の足しにでもしてくれ」 両手に抱えるほどの乾肉。交渉用にと持参したが、その必要はなくなっていた。 せめてものお礼にと、差し出された乾肉に、極彩鳥は笑う。 『以前にも、このように貰いましたね』 「あの時よりは多いから、一食分ぐらいにはなるだろ」 『子供たちは大食らいですから、足りないかもしれません』 「これ以上はないんだが……」 『ふふっ、冗談です。……それでは、そろそろ時間ですね』 「こんな日が出てるうちに行くのか?」 夜ならともかく、今の時間帯では多くの人に見つかるのではと翔は心配したが、そうではなかった。 『寧ろ、去って行ったと敢えて姿を見せるのです。他大陸に着く頃には夜ですから、大丈夫です』 心配ご無用と、極彩鳥は告げ、肉を嘴の上に乗せると、翔から離れていった。 ゆったりと巣まで戻っていき、雛たちを一匹ずつ背中に乗せて立ち上がり翔を向いた。 その時、聖羽から音が聞こえた。翔が耳元まで持っていくと、声が聞こえた。 『近くでなら、触れていなくても会話ができます。最後に、今から、私の名を授けます』 優雅に、荘厳に、極彩鳥はその翼を広げ、名を告げる。 『ラクルス、それが私の名です。貴方の名は?』 問われ、翔は答える。 「戸神、翔」 極彩鳥は名を聞くと、軽く頷き 『戸神翔、いい名ですね。……またいずれ、逢いまみえんことを』 そして広げた翼を扇ぐと、一度の羽ばたきで突風が巻き起こり、翔は倒れぬよう剣を地に突き刺し踏ん張る。 そして収まった頃に目を開けると極彩鳥の姿は遥か高くに、巣だけが跡形もなく消えていた。 「立つ鳥跡を濁さず……ってやつかね」 翔は笑い、空に手を振る。 「それじゃラクルス、あと雛たちも、またな」
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