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――――――
極彩鳥は飛び去って行った。手元には三枚の羽。目的は達成されたというのに、もう駄目そうだ。
突き刺した剣にもたれ掛かり大きく息を吐く。
「―――ふぅー」
頭がボーっとする。まったく情けないな俺は。店長さんと約束したって言うのに、大丈夫だって言って見せたのに、結局は守れやしない。
「ああ……畜生め……」
ミーシャはどんな顔をするだろう……
怒るだろうか?それとも悲しむだろうか?それともあまり気にしなかったり……どうなんだろう。
切り株の上ですやすやと気持ちよさそうに寝ているフーを見る。
「……むにゃ……えへへ……」
楽しい夢でも、それこそ、今日のミーシャの誕生日の夢でも見てるんだろうか。
……フーに俺を連れてく事はできない。けど、夜までには流石に起きるだろう。
「うわっ―――」
限界が来たのか、剣が消える。掛けていた体重に、地面に倒れ込む。
「くっ……せめて……」
感覚が無くなりつつある腕を伸ばし、震える指で伝言を書いていく。フーは、気づくだろうか?気づいてもらわなきゃ、困るけど。
「ダイイングメッセージみたいだな……」
言って、馬鹿だなと笑う。
襲いかかる眠気に負け、目を閉じる。
ミーシャ、一緒に祝えなくてごめん。幾らでも、怒ってくれていいから。
ただ、その後で、これでもかってぐらい祝うから。ミーシャが苦笑するぐらい頑張るから、だから許してほしい。
今はもう、無理そうだ。
戸神翔は、寝させてもらう……お休み――――――
――――――
「……残念、昔馴染みに逢おうと来てみましたが、もう去った後でしたか」
時間にしておよそ五時ごろ。極彩鳥の巣があった場所で、白のタキシードを着た一人の男が残念そうに呟く。
「のんびりしすぎましたね。仕方ない、帰り……ん?」
諦めて帰ろうとした男の視線に映った、俯せの少年。近づき、男は悟ったように言う。
「力を使いすぎましたか……ん?『フー、先に、天心に、帰れ』……ですか」
地面に描かれた文字を読み、近くを見渡すと切り株の上で眠る妖精の姿。
男はうんうんと頷き、起こさぬようフレリアを肩に乗せ、翔を背負った。
「仙道を止めるのには、まだ足りませね。しかし、今はこれでいいとしましょう」
夕暮れの山を、一歩、一歩と男は歩き始める。
「さて、のんびり帰りましょうか」
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