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――――――
天心の店先に一台のリアカーがあった。そこから次々と下ろされる野菜という野菜の山々。
「―――あとこれだろ、それとな、さっき届いたばかりなんだがこいつも新鮮でって、痛ぇっ!?」
「馬鹿だね。ミーシャが苦笑いしちゃってるでしょうに」
「あはは……」
夕刻。日は高く、訪問者は首に掛けた手拭いで汗を拭きつつ。
「良いじゃねぇか。年増ごとに小言が多くなりやがって」
「アンタも同じだよ。……ごめんねぇミーシャ。重いでしょそれ?」
「いえ、鍛えてますから」
そう笑顔で答えるミーシャの腕には瑞々しいキャベツの山。その周りも様々な野菜に囲まれていた。
そう、訪問者は八百屋を営む最近40を迎えた夫婦である。
仕事を終え、やっとこさミーシャの誕生日を祝おうとやって来たのだが……
「仕事がなけりゃあもっと早く来れたんだけどなぁ」
「全くだねぇ」
窓から見える店内のその他の贈り物に揃って頭を掻く。
早朝から、ミーシャにと街の人々が持ってきた品々。自分達は殆ど最後に来てしまったと夫婦が嘆くなか、ミーシャは違うと首を振る。
「時間なんて関係ない。皆が来てくれるだけで、私は嬉しいから」
その微笑みに、夫婦は唸った。
「かぁー、良いこと言うじゃねぇかホントよ」
「全くだね。翔には勿体ないぐらいだよ」
何気無く発せられたその言葉に、ミーシャは疑問を浮かべる。
「何の話なの?」
そう聞き返され、夫婦は顔を見合わせると意外そうな顔をして
「「アンタ(お前)逹付き合ってるんじゃないのか(い)?」」
「……え?」
ミーシャの表情が固まる。それは、一体、何の冗談かと。
(翔と……私が?…………ないないない!!)
顔が赤くなる感覚に、ミーシャはブンブンと首を振り想像を掻き消す。
しかし、そんなミーシャに追い討ちをかけるように夫婦は続ける。
「この前も仲好さげに一緒に街中で買い物してたからなぁ。街でも中々に話題に上がってるぞ」
「そうそう。だから、てっきり、付き合ってるんじゃないかって話してたんだけど」
違うと、付き合ってないと、笑って返せばそれで終わりの筈だった。しかし
「…………翔は……私の家族だよ」
気づけば、ぶっきらぼうに、そう言い捨ててしまった自分がいた。
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