日常のち誕生日

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数秒の後、叔父がミーシャに向き直り返した答えは否定でも、肯定でもなかった。 「……俺はお前に誤魔化す様な真似はしたくない。だから事実だけ言おう。彼奴は絶対に帰ってくると約束して、俺はそれを信じたんだ」 そこまで言うと、ふっと破顔し 「翔を信じてやれ。約束を破るような男じゃないことはお前も知ってるだろ?」 逆に問われ、ミーシャはコクりと頷く。 翔がそう言ったなら、信じたい。それでも上げた顔からは不安が消えきってはいず。 「ミーシャ……」 その表情が居た堪らなくなり、叔父は隠していた翔の登山の真の理由を教えてしまおうとした時だった。 不意に、店の扉の開く音ともに数人の来訪者。 「ミーシャ、誕生日おめでとう。お祝いに来たわよー。一緒に姉さんも連れてきたから」 「おいレイア、服を引っ張るな!!……まったく……何だ、そのだな、ミーシャ、適当にプレゼントを見繕ってきたぞ」 「は?俺に頼んでまで必死に考えてたろお前。……フィア?お前耳が真っ赤だぞ。……もしかして照れてんのか?何だ、可愛いとこあんじゃ……右腕がぁぁぁっ!?」 「おいリック、詰まってんだからふざけてないで早く入れ。俺とアリシアが入れないだろ」 「えっと、失礼します……ミーシャさん、誕生日おめでとうございます」 上からレイア、スフィア、リック、ハンク、アリシアである。 ミーシャを祝おうと(アリシアは家族の団欒を邪魔してはいけないと遠慮してたのだが)やって来たのだった。 だがやはりというか、些かタイミングが悪かった。 話の腰を折られ、叔父はこめかみに親指を押し付けため息を吐く。 だが反対に、ミーシャは突然の友人の訪問を喜び、ふと思ったことを口にする。 「みんなありがと。……そうだ、私と叔父さんだけじゃ夕飯食べきれないから、みんなも食べてかない?」 その言葉に、後ろでそれが狙いと言わんばかり喜色を浮かべる男二人と、急に慌てた面持ちで話し込むレイアとアリシア。 その様子に何だと思いつつ、スフィアはふと気が付く。 「……そういえば戸神の姿が見当たらないな」 ミーシャはピクリと震え、しかし直ぐ様、何でもないように返す。 「翔は……今出掛けてて帰るのが遅くなるから。だから、ね。良いでしょ、叔父さん?」 「……ああ」 不安と寂しさを紛らわすために思えたその言葉に、叔父は何も言おうとしなかった。
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